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この三年間彼女をこきつかってきた間
遅刻や欠勤は一度もなく
大和は優秀な彼女がうちにやって来てくれた
ことを感謝さえしていた
彼女が無駄話をしているのを見たことがなかったし
彼女のオフィスの周りにはただ落ち着いた静寂だけだった
業務終了時間になれば社員は自由だ
他の秘書は業務が終わるとボーイフレンドの事や
私生活のことなどで無駄話しをかわしているが
姫野杏奈はそんな所を一度も見たことがなかった
彼女のデスクはいつもキチンと片付いている
彼女は大和の嫌いなセンチメンタルなタイプとは
ほど遠く
大和の望むような仕事ぶりを見せる冷静な女性の
ように思われた
海運業で財を成した後はもう他人に羨望を抱くことは無いと思っていた
それなのに今古い朽木が内側を虫に食い荒らされるように
大和の内側を羨望に蝕まれているような気がする
自分は誰よりも裕福で幸せだと思っていた
なのにここ何か月もこれまで興味を覚えていたものに
食指が動かなくなってきていることは
自分でも認めざるを得なかった
大和は目を閉じ
なぜか今日の姫野杏奈達が楽しそうに
騒いでいる所を思い出していた
遠い昔・・・
学生時代は悪友と酒を交わし
夜通し気楽に大騒ぎしたものだ
しかしあれから大和をとりまく環境は変わった
以前は一緒にいてあれほど楽しかった
学生時代の悪友達はその他大勢と同じつまらない
人間に成り下がってしまった
そして大和は祖父の死後海運会社を背負う者として
責任を担う様になった
生きる世界が違えば会う事もなくなった
自分にはあの姫野杏奈のように懐いてくる
兄弟もいなければ
上司をこき下ろして大笑いする同僚などもいない
会社の人間は彼の活力や目まぐるしい生き方を
羨望さえするが
誰も自分と対等に話そうとしないし
誰も懐いてこようとはしない
そこで大和はフッと笑った
当たり前だった自分は会社のトップなのだから
差し迫った問題はまさに亡き祖父の遺言状に
記された自分の結婚相手のサインだった
この偽装婚が成立すれば大和の会社に
祖父が保有する株を彼が引き続き支配していくことが出来る
父も祖父も亡くなってからここ数年間は大和の戦略的な業務提携が功を奏し
「ディアマンテ国際海運株式会社」は
二倍の規模になるほど成長した
今まさに大和が求める偽装婚の相手は
あの姫野杏奈のような
どんな困難にも冷静に立ち向かえる
有能な秘書のような女性だ
そうか・・・・彼女は結婚するのか・・・・
大和は考えた
おしいな・・・・・
次は言葉に出た
「実におしい・・・ 」
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