chapter 2 運命の向こう側

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「・・・・君を嫌いにはなれないよ・・・ ただ・・・これ以上嘘はつけない 分かってくれよ・・・僕も辛いんだ 」 「嘘はつけない?・・・・ あなたまさか他に好きな女性でもいるの?」 正人はバツが悪そうに体をもじもじさせた 「・・・・たとえそうだとしても 僕が君と距離を置きたいと思った事とは関係ない どっちみち君は裏切られたと感じるだろうからね」 「・・・・誰なの? 」 杏奈はコーナーリングに追い詰めるように言った 彼をこの事実から逃がしたくなかった ますます正人は落ち着かない表情で 肘の貧乏ゆすりが激しくなった まるで母親がいたずらした子供に共犯者は誰だと 問い詰めているような嫌な気分にさせられる そこでハッとした 「・・・・私の・・・・ 知ってる人?・・・・ 」 正人はため息をついた 「こんなことを他の人の口から聞くのは 君は嫌だろうから僕の口から言っておくよ・・・ 君との関係に悩んでいた時・・・ ある人に相談していたんだ・・・・ 僕には相談できる相手が欲しかった それで・・・ 友達のように悩みを聞いてもらううちに 僕らは――― 」 そこで全身の皮膚がパーンと 剥がれ落ちたかのように一気に体が冷えた 長年生きてきてこのパターンは覚えがある 嫌というほど  自分の感の良さにほとほと嫌気をさしながら言った 「カンナね・・・カンナなのね!」 座ってるのにまるで高い所から落ちるような感覚だった 今や正人の目はせわしなく泳いでいる 「僕も彼女もそんなつもりはなかったんだよ さっきも言ったように誰も悪くないんだ 」 杏奈は瞬きをして唾を飲み込んだ 「そんなつもりってどんなつもり? あなたは私と婚約しておきながら 私の妹ともつきあっていると言うの? 妹を愛しているの? 」 「最初からそのつもりだったんじゃないよ カンナちゃんを責めないでくれ さっきも言ったように誰も悪くないんだ」    「あなたカンナと寝たの?」 途端に正人はばつが悪そうに黙り込んだ もうこれ以上冷静に聞いていられなかった 誰も悪くないですって? 自分が何をしでかすかわからないし 彼の頬を叩いてやりたかった でも一番にカンナの頬を力一杯叩いてやりたかった 正人はコホンと咳をして腰をあげた 「・・・・とにかく・・・・ 落ち着いて考えられるようになったら・・・ また話をしよう 君とは良い友達でいたい  」 妹と寝ておいて・・・・ これからつきあうのに元婚約者の 私とは友達でいたいって言ったの? この人? 苦々しさがこみ上げてくる まったく動けない杏奈を残し 正人が去った後も一人自分の置かれた状態を 飲み込めずしばらく呆然と座っていた しばらく時間が経った後・・・ 少し頭がはっきりしてきた よく考えれば今更驚くことではない いかにもカンナらしい振る舞いだ 妹は低身長の杏奈とは違い スラリと背が高くて学生時代はモテていた セクシーで話が面白く、出演回数は少なくても  テレビ関係者でアナウンサーの卵として  活躍しているだけあって杏奈と違い 彼女には華がある   しかしいくらカリスマ的な魅力があって 美人のカンナの第一印象は良くても 飽きっぽくて自己中心的な性格なので 友達付き合いも恋愛も長続きしないのだ   正人はわかっていない 妹の事を・・・・ 杏奈は思い出していた 正人をカンナに紹介し2~3度三人で食事をした時 しかしあの時のカンナは正人にまったく興味を示さなかったので杏奈は何の疑いも抱かなった たしかに姉のものは自分のものと考えているような 妹だがまさか・・・・ ポトッと冷めたコーヒーに一粒雫が滴った それは杏奈の涙だった 杏奈は思った まさか妹に婚約者を盗まれるなんて 思いもよらなかった
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