chapter 2 運命の向こう側

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そこでキーボードを叩く手が止まった あまりに辛すぎて何も考えられない いつものようにアンドロイドのような ポーカーフェイスも出来ない これほど沢山の思い出と押し寄せて来る さまざまな感情をどうすればいいのだろう 力なく腰を上げ ドリンクバーの方へフラフラ向かった まだ涙はこぼれ落ちているが とりあえず冷蔵庫に入っている 飲みかけのスポーツドリンクを取り出す フラフラしているのでドリンクバーのテーブルに おしりがガシャンと当たった その拍子にケータリング籠に入っていた 果物ナイフが床に音をたてて落ちた ぐすんと涙を拭きながら 杏奈はしゃがんで果物ナイフを手に取った ナイフの刃先は照明に反射されて 杏奈の滲んだ涙も相まってキラキラ綺麗だった しばらく杏奈はナイフを見つめながら 幼い頃お向かいのフラワーアレンジメント講師の 公子おばさんに貰ったガラス製の花瓶を思い出していた あれもカンナに壊されたんだっけ・・・ あの時もとても悲しかったけど 今ほどではなかった あれからも自分はカンナの良き姉になろうと努力した 遊びに行きたいと言われれば 一緒に外食をし代金を払った せがまれればお金を貸し メイク道具や服も貸した 貸したものが返ってくることは当然一度もなかった しかしこの仕打ちはあんまりだ あの二人はどんな風に始まったの? どちらの方が積極的だったの? 私は彼にうんざりされるほど口やかましかったの? マー君はカンナは悪くないと言ってたわ・・・ 彼の言う通りだったら私がいけなかったの? あまりに辛すぎて何も考えられない 誰もいない夜のオフィス・・・ 杏奈は果物ナイフを握りしめ その場にしゃがみ込み 嗚咽が漏れるのをこらえた ヒック・・・・・ 「う~~~・・・・・・ 」 その時大きな手に物凄い力で ぐいっと手首を掴まれた 「キャァ!!!」 「はやまるな!!!話を聞くからっっ!」 手首を掴んだのは意外な人物だった 杏奈のボス海運王の安部大和が 険しい顔つきで杏奈を見つめていた
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