chapter 2 運命の向こう側

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杏奈が顔を上げると黒髪の海運王が 杏奈の手首を握りしめて 鋭い目でこちらを見ている 思わず面食らって持っていた 果物ナイフを床に落とした  こんな近くで彼を真正面から見たのは初めてだった いかにも海の男らしくがっしりとした体格の男性だ 業務が終了しているせいか 彼はグレーのワイシャツ一枚でネクタイは無く 第三ボタンまで外れている胸元からは 小麦色の健康的な鎖骨が見え隠れしている それに人生の厳しい一面を見てきたような 雰囲気を醸し出している 別の場所で出会ったらもっと違った感情を抱いたかもしれない だがこんな業務終了後の誰もいない オフィスで二人っきりでいるのは ゴメンこうむりたい 先に口を開いたのは海運王だった 「姫野さん・・・・・ 何があったか知らないが自殺は良くない 君を産んで育ててくれたご両親が悲しむよ」 ・・・・・?・・・・・・ 何を言っているのだろう? 杏奈は目をパチパチした そのせいで溜まっていた涙がまた一滴溢れた 捕まれた手首が自由になりたがっている グスン・・・ 「・・あ・・・あの・・・・ 離してください・・・・」 「君が変なことをしないと約束してくれたら 喜んで離すよ 」 「・・・・変な?・・・こと?」 「・・・・・違うのか?・・・」 初めて二人はマジマジとお互いの顔を見つめ合った 今の杏奈は優秀な秘書の仮面をかぶっていない 業務はとっくに終了している あまりに突然手首を掴まれたので 驚いて涙はとっくにひっこんでいた 彼は警戒して杏奈を観察しながら ゆっくりしゃがみ片方の手は杏奈の手首を掴み もう片方の手は床に落ちている果物ナイフを掴んだ 「動くなよ 」 海運王はぶっきらぼうに言った ヒックと一つしゃっくりをして杏奈は用心深く 彼を見つめた そしてハッとした うそでしょ! 彼は私がその果物ナイフで自殺しようとしていると 勘違いしているのだわ!! 荒っぽい雰囲気がなかなか魅力的で 強烈な存在感を放っている彼から目が離せない 彼は杏奈の手を離したかと思ったら 素早くわざわざ遠くに回ってドリンクバーの 高い位置の杏奈の手が届かない所に 果物ナイフを置いて再び戻って来た
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