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「何があったんだ? 」
「え・・・・と・・・あの・・」
杏奈が何か言いかけたと思ったら
彼の手のひらに遮られた
「ああ!今は何も言わなくていい!
点検のためにもうすぐこの階の電灯が切れ
るシステムが作動するんだ!一旦外に出よう!
荷物を持って着いて来なさい」
「ハ…ハイ 」
杏奈は慌てて自分のデスクのパソコンの電源を切った
そしてカバンと上着を持って急いで出口に向かった
海運王はズカズカとオフィスのブレーカーの下に行き
電源スイッチを何やら操作した
二人はバタバタとオフィスを出てエレベーター前に来た
それと同時にバチンッ!バチンッとオフィスの
各セクションごとに電気が切れて
この階一面あたりは真っ暗になり
エレベータ前だけがほんのり灯りが灯っていた
「・・・・で?・・・
自殺じゃないんですね? 」
二人で並んでエレベーターに乗り
彼が壁に後頭部を打ち付けて杏奈に聞く
杏奈は信じられない気持ちで声を出した
「まさか・・・・違います!」
「じゃあ何で泣いてたんですか?」
杏奈は沈黙してうつむいた
いつもなら親しくない男性に
絶対個人的な事は話したりしないが
今日はどういうわけか・・・・
心は弱り切って自暴自棄になっていた
「何でもありません・・・・
ただ・・・婚約者に捨てられただけです 」
しばらく沈黙が続きエレベーターの下る音だけが
あたりに響いた
海運王は杏奈を見ずに言った
「・・・・今日ってことですか? 」
「一時間ほど前に決定的に別れました」
「あ~・・・その
間違いじゃないのかな?ただの喧嘩とか?」
杏奈がため息をついて言う
「それはありません・・・
彼はもう他の女性と付き合っていますから」
またしばらく沈黙が訪れた
高層階のエレベータは地上に降りるまでに
長い時間がかかる
杏奈は次第に窮屈に思えてきた
「そんな奴なら別れて正解だな」
「彼の味方はしないんですか?」
杏奈は皮肉な口ぶりで言った
「どうして僕がそいつを庇わなければいけないと
思うんです?」
「だって男性はみんな浮気をしたがるものでしょう?
それが本能なんじゃないんですか?
そしてそれを女は許さないといけないんじゃないですか?」
フッと彼が笑った
「冗談じゃない男なんて一途なもんだよ
心変わりをするのはいつだって女の方だ」
二人はエレベーターの出口から地上に降りた
今夜は電灯点検のためかもう社内ロビーには
誰もいなかった
杏奈が正面玄関に向かおうとすると彼が呼び止めた
「ああ!そこのドアはもう開かないよ
出口はこっちだ 」
ジャケットを肩に引っ掛けて安部社長は
杏奈に社員専用出口に来るように言った
専用出口を出るとそこは重役専用駐車場だった
電車通勤の杏奈は初めて入っただだっ広い
当社地下駐車場をキョロキョロ見渡した
「こっちだよ」
海運王に言われるがままに後ろをついていく
いったいどこまで行くと地上に出られるんだろう
しばらく行くと突き当りのまた白い大きな
セクションドアを彼がガチャンと開けた
そこは社長専用駐車場で
黒いロールスロイス・ファントムが
豪華な輝きを放って杏奈の目の前に飛び込んできた
エレガントな高級車は特権階級の象徴だった
制服を着た運転手が待っており
目の前の後部座席をバカンと開けて
杏奈に頭を下げた
「あ・・・の・・・・・ 」
青い顔をして杏奈が尋ねた
「メシを食いに行こう
乗りなさい 」
海運王はそう言って顎をクイっとやった
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