chapter 2 運命の向こう側

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「何があったんだ? 」 「え・・・・と・・・あの・・」 杏奈が何か言いかけたと思ったら 彼の手のひらに遮られた 「ああ!今は何も言わなくていい! 点検のためにもうすぐこの階の電灯が切れ るシステムが作動するんだ!一旦外に出よう! 荷物を持って着いて来なさい」 「ハ…ハイ 」 杏奈は慌てて自分のデスクのパソコンの電源を切った そしてカバンと上着を持って急いで出口に向かった 海運王はズカズカとオフィスのブレーカーの下に行き 電源スイッチを何やら操作した 二人はバタバタとオフィスを出てエレベーター前に来た それと同時にバチンッ!バチンッとオフィスの 各セクションごとに電気が切れて この階一面あたりは真っ暗になり エレベータ前だけがほんのり灯りが灯っていた 「・・・・で?・・・ 自殺じゃないんですね? 」 二人で並んでエレベーターに乗り 彼が壁に後頭部を打ち付けて杏奈に聞く 杏奈は信じられない気持ちで声を出した 「まさか・・・・違います!」 「じゃあ何で泣いてたんですか?」 杏奈は沈黙してうつむいた いつもなら親しくない男性に 絶対個人的な事は話したりしないが 今日はどういうわけか・・・・ 心は弱り切って自暴自棄になっていた 「何でもありません・・・・ ただ・・・婚約者に捨てられただけです 」 しばらく沈黙が続きエレベーターの下る音だけが あたりに響いた 海運王は杏奈を見ずに言った 「・・・・今日ってことですか? 」 「一時間ほど前に決定的に別れました」 「あ~・・・その 間違いじゃないのかな?ただの喧嘩とか?」 杏奈がため息をついて言う 「それはありません・・・ 彼はもう他の女性と付き合っていますから」 またしばらく沈黙が訪れた 高層階のエレベータは地上に降りるまでに 長い時間がかかる 杏奈は次第に窮屈に思えてきた 「そんな奴なら別れて正解だな」 「彼の味方はしないんですか?」 杏奈は皮肉な口ぶりで言った 「どうして僕がそいつを庇わなければいけないと 思うんです?」 「だって男性はみんな浮気をしたがるものでしょう? それが本能なんじゃないんですか? そしてそれを女は許さないといけないんじゃないですか?」 フッと彼が笑った 「冗談じゃない男なんて一途なもんだよ 心変わりをするのはいつだって女の方だ」 二人はエレベーターの出口から地上に降りた 今夜は電灯点検のためかもう社内ロビーには 誰もいなかった 杏奈が正面玄関に向かおうとすると彼が呼び止めた 「ああ!そこのドアはもう開かないよ 出口はこっちだ 」 ジャケットを肩に引っ掛けて安部社長は 杏奈に社員専用出口に来るように言った 専用出口を出るとそこは重役専用駐車場だった 電車通勤の杏奈は初めて入っただだっ広い 当社地下駐車場をキョロキョロ見渡した 「こっちだよ」 海運王に言われるがままに後ろをついていく いったいどこまで行くと地上に出られるんだろう しばらく行くと突き当りのまた白い大きな セクションドアを彼がガチャンと開けた そこは社長専用駐車場で 黒いロールスロイス・ファントムが 豪華な輝きを放って杏奈の目の前に飛び込んできた エレガントな高級車は特権階級の象徴だった 制服を着た運転手が待っており 目の前の後部座席をバカンと開けて 杏奈に頭を下げた 「あ・・・の・・・・・  」 青い顔をして杏奈が尋ねた 「メシを食いに行こう 乗りなさい 」 海運王はそう言って顎をクイっとやった
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