chapter 2 運命の向こう側

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「1件電話をしてもいいかな」 隣で安部社長が杏奈で言った 「もちろんです!私の事は気にしないでください」 静かな声で英語で話している彼を なるべく見ない様に杏奈は正面ゲートを出た ロールスロイスの中から 通り過ぎる本社ビルを見上げた 高級車は空を飛んでいるゆりかごのように 心地よい動きで走っている どうしてこんなことになっているのだろう・・・ 今杏奈はレガシー国際海運の海運王の ロールスロイスに乗って 隣にはまさしく海運王が乗っている 杏奈はライトアップされて均一に並んでいる 自社ビルのルービックキューブのような 四角い窓を見上げた さっきまであそこの一室で絶望に苛まれていたのに その前の遊歩道を犬を連れて散歩するカップル・・・・ たいていの人にとってはいつもと同じ晩だ でも・・・・・ 思いもかけない出来事に遭遇している人もいる 私のように・・・・・ 杏奈は思った ラッシュアワーの街中をロールスロイスは軽快に進み 杏奈は大和の隣でそっと深呼吸を試みた ひどく緊張しているのが自分でもわかる 杏奈は自分でも驚いていた めったに涙なんか流さないのに今回の件で 自分を見失いかけている 私は何事にも動じず プロフェッショナルで クールに仕事をこなす そう自他ともに認める 社長専属秘書チーム主任の姫野杏奈だったはず それなのに先ほど誰もいないオフィスで 泣いている自分を彼に見られてからすっかり 調子が狂ってしまっていた 限りなく黒に近いあの瞳で ひたと見つめられたら最後・・・・・ 杏奈は魅入られたように固まってしまったのだった こちらが必死で平然とした態度でまなざしに 力を込めて見つめ返していも 彼の視線は揺らぐことがない まるで二人の間に何か深い繋がりがあるかのような そんな錯覚を起こしそうになってしまう こういう男性が隣にいると息をするのを忘れそうになる こんなことではいけない しっかりしなければ 社長はただ単に泣いていた私を心配して食事に誘ってくれただけだ いつものようにクールに仕事の話を一つ二つ しながら軽い食事をすませ 礼を言ってさっさと帰ればよい
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