chapter 2 運命の向こう側

12/32

7607人が本棚に入れています
本棚に追加
/383ページ
ロールスロイスが止まったのは波止場の近くの お城の様な店の駐車場だった どこからかジャズの生演奏が流れてくる中 杏奈は車から降りた 「さて・・・ここからは あなたは私の部下ではありません 私のゲストとしてエスコートをお許しいただけますかな?」 彼はそう言って曲げた肘を出した 杏奈はためらいがちに彼の肘を取った こんな風に扱われたのは初めてだった まるでヒストリカルロマンスの ヒロインになった気分だった 不思議・・・・ ほんの数時間前はこの世の終わりみたいに  悲しみに暮れていたのに・・・ 走ったわけでもないのに 今は心臓がドキドキして頬が熱い 彼の肘をとったままお城の玄関の壮麗な 石段を一つ一つ上がりゆっくりと二階に登る 海が見えて 現代のビルであれば四階部分にあたる高さだ 二階に近づくにつれて弦楽カルテットの奏でる 調べが大きくなった そして幼いころから馴染みのある 杏奈の心が躍るようなモーツァルトの音楽が 羽のように杏奈の体を撫でていった 思わず杏奈は楽しい気分にワクワクした これほど異次元で完璧なレストランは他には ないと杏奈は思った 内庭やアーチ屋根の下で食事を楽しんでいる人達が 眼下に見えた 店全体が醸し出している上品でエレガントな 雰囲気 調度品の数々 いったいここは何のレストランなのだろう 正人とはこんな所には絶対来れないだろう もし来たとしても二人とも圧倒的なこの豊かな 雰囲気にしり込みし緊張しすぎて きっと何を食べたかも覚えていないだろう しかし今はこんな雰囲気に手馴れていて 自分の歩調に合わせて優雅に隣を 歩いてくれる素晴らしい男性のおかげで 杏奈はリラックスして周りを観察できた 不安と興奮はどちらも最高潮に達している やがてフェリーの積み下ろしが一望できる VIP専用特別バルコニーに到着した 二人は素敵な白いリネン素材のクロスが掛けられた 丸い二人掛け用のゲストテーブルに案内された
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7607人が本棚に入れています
本棚に追加