chapter 2 運命の向こう側

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テーブルを挟んで座っている 彼の今日のファッションは デザイナーズブランドのクリーム色のジャケットに 中はグレーの美しいドレスシャツを身に着けていた 会社にいた時と同じくネクタイはしておらず 腕には高級時計が光っている 杏奈のするどい観察眼が彼に向けられた ミンクの毛皮を思わせるダークブラックの髪は 額に一房たれ落ちて もてあそんでと誘っているかのようだ こういう洗練された装いも似合っているけど その中にも彼独自の逞しさが感じられる 本当はこんなスーツやネクタイでがんじがらめに されるのは苦手だと体が無言で 言い訳しているようだった 真正面に座っている マフィア映画のような雰囲気を醸し出している 彼を眺めるのは正直眼福だった 今彼は写真アルバムほどある ワインリストに目を通している ウェイターがうやうやしく二人のグラスに水を注ぎ 杏奈の膝にナプキンをかけてくれた 杏奈の手にしたメニューはクリーム色の布背表紙で お洒落な飾り文字が書かれてあった メニューはどれも聞いたことのない名前ばかりで 何を注文したらいいかさっぱりわからなかった そしてその値段と来たら― 見ただけで杏奈は卒倒しそうだった 「し・・・・社長!・・・ 」 杏奈は目をぱちくりさせて言った 「メニューに・・・・ 九千八百円もするハンバーガーがあります!」 すると海運王は顔をしかめた それは金額に驚いたからではなく 杏奈のメニューに値段が書かれていたからだった 彼は優雅にパチンと指を鳴らした するとウェイターは慌ててすっ飛んできた 彼がウェイターになにやら耳打ちすると ペコペコ頭を下げて謝った そして杏奈の手からさっとメニューが消えて 別のメニューが渡された ほとんど同じメニューだったが 今度はまったく値段が書かれていなかった 「僕がディナーに誘ったんです ここの値段の事は気にしなくて良いですよ」 ボスはウェイターの失敗にまだ腹を立てているようだった
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