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テーブルを挟んで座っている
彼の今日のファッションは
デザイナーズブランドのクリーム色のジャケットに
中はグレーの美しいドレスシャツを身に着けていた
会社にいた時と同じくネクタイはしておらず
腕には高級時計が光っている
杏奈のするどい観察眼が彼に向けられた
ミンクの毛皮を思わせるダークブラックの髪は
額に一房たれ落ちて
もてあそんでと誘っているかのようだ
こういう洗練された装いも似合っているけど
その中にも彼独自の逞しさが感じられる
本当はこんなスーツやネクタイでがんじがらめに
されるのは苦手だと体が無言で
言い訳しているようだった
真正面に座っている
マフィア映画のような雰囲気を醸し出している
彼を眺めるのは正直眼福だった
今彼は写真アルバムほどある
ワインリストに目を通している
ウェイターがうやうやしく二人のグラスに水を注ぎ
杏奈の膝にナプキンをかけてくれた
杏奈の手にしたメニューはクリーム色の布背表紙で
お洒落な飾り文字が書かれてあった
メニューはどれも聞いたことのない名前ばかりで
何を注文したらいいかさっぱりわからなかった
そしてその値段と来たら―
見ただけで杏奈は卒倒しそうだった
「し・・・・社長!・・・ 」
杏奈は目をぱちくりさせて言った
「メニューに・・・・
九千八百円もするハンバーガーがあります!」
すると海運王は顔をしかめた
それは金額に驚いたからではなく
杏奈のメニューに値段が書かれていたからだった
彼は優雅にパチンと指を鳴らした
するとウェイターは慌ててすっ飛んできた
彼がウェイターになにやら耳打ちすると
ペコペコ頭を下げて謝った
そして杏奈の手からさっとメニューが消えて
別のメニューが渡された
ほとんど同じメニューだったが
今度はまったく値段が書かれていなかった
「僕がディナーに誘ったんです
ここの値段の事は気にしなくて良いですよ」
ボスはウェイターの失敗にまだ腹を立てているようだった
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