chapter 2 運命の向こう側

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「いくら育ててくれた親御さんが大切でも あなたの人生を踏み台にされる必要はない 離れていても親孝行はできるものだ それからそのろくでなしはあなたには似合いませんよ  切れてよかった もう彼のために涙を流すのはおよしなさい」 彼はそう言ってワインをくいっと飲んだ 素敵な横顔にくっきり浮き上がった喉ぼとけが ゆっくり上下した そこから箍(たが)が外れたように家族の事 仕事の事など自分の想いを 杏奈は休むことなくしゃべりつづけた 彼が杏奈の話に温かい感心を寄せてくれて 時々質問をしては先をうながしてくれたからだ ワイングラスは絶え間なく注ぎ足され いくら飲んでも空になることはなかった 不思議と何でも話せると言う解放感 すべてを語れる自由が今まで自分が背負っていると自覚さえしていなかった重荷を取り去ってくれた 家族の事を考えすぎるがゆえに じっくり自分の感情と向き合う事から目をそむけ あまりにも沢山の事を胸にしまいこんでしまっていた 杏奈はフラワーアレンジメントで賞を獲った時の 画像をスマホに写して安部に見せた 彼は長い間杏奈のスマホに映った 花の画像に見入っていた 「・・・・素晴らしいな・・・ 何歳からやってるんだい?」 「10歳からです」 「一つの事を長く続けられるというのは それだけで才能なんだよ 君は才能があるなこれを見ればわかる」 「辛い時・・・・悲しい時・・・ 花は私に語りかけてくれて 寄り添ってくれました そんなに儲からなくても・・・・ 公子おばさんとの約束通りきっと将来は フラワーアレンジメントの教室を開きたいんです」 その言葉がするりと出て来た事に杏奈は驚いた 誰かに気持ちをすべてさらけだす必要が あったのかもしれない・・・ このタイミングで兄と話すって きっとこんな風なんだろうかとふと思った 年上で分別のある男性・・・・ ずっと長女役をやっていた自分は本当は 兄の様な存在が欲しかったのかもしれない ワインのせいで饒舌になり 杏奈の心はすっかり晴れて開放的になっていた 「こんなに楽しかったのは初めてです でも・・・ワインを飲み過ぎたのか少し 酔ってしまいましたわ・・・ どこかで酔いを醒まさないと・・・ このまま家に帰ると母が心配します 帰りは近くの駅で降ろしてください電車で帰ります」 自分が酔って帰ってきたら母なら きっと心配して根掘り葉掘り聞かれるに違いない 「それならば食後の散歩はいかがかな? ここはテラスから海岸に出られるんだ 今夜はとても暖かくて月が綺麗だ 」 杏奈は微笑んで言った 「それは素敵ですね」
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