chapter 2 運命の向こう側

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彼はしばらく後ろから着いてきていたが やがて追いつくと再び並んで歩きはじめた 散歩をすれば酔いが冷めると思ったのに 綺麗な海の景色を楽しみたいのに 杏奈は隣のゴージャスな男性から 目を離すことが出来なかった 人生と責任が彼の眉間と口の横にしわを刻んでいた でもそれは手厳しい海運王ではなく 人としての魅力を添えただけだった 厳格なのにユーモアがあり 冷徹だけど思いやりに満ちている それを今日知ってしまった こんな男性他にいない そう意識してしまうと杏奈は途端に緊張し 思わず軽い口調で思いつくことを言った 「今夜は失恋したての女としましては ゴージャスすぎる夜でした きっと・・・一生の思い出になりますわ 」 「寂しいことを言うね」 杏奈は答えなかった ちゃんと声に出せる勇気がなかった 彼に背を向け海を眺めた 月が投げる光の帯と 寄せる波がただ均一に漂っている いつの間にか堤防の端まで来て目の前には コールタールのような夜の海が広がった 二人とも無言で向きを変えると 来た堤防の道を戻りだした 今度は二人とも黙ったままだが 杏奈は隣の大きな存在感を強く意識していた 先ほどのレストランで彼の笑顔の魔法が まだ効いている 突然ピタリと彼が立ち止まった それにつられて杏奈も立ち止まり彼を見上げた
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