chapter 2 運命の向こう側

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杏奈はこのビジネスの報酬の欄に目を通した タイミングよく大和が付け加える 「このビジネス報酬はそこに書かれている通り 離婚慰謝料6000万円に このワールドトレードセンターの最高立地のテナント1店舗・・・」 そう答える 今や目の前の彼からは得体の知れない 危険な雰囲気も感じ取れた 「そこに記載されていない報酬の補足として あなたと亡くなったおばさんの夢を叶えるために 僕もささやかながらお手伝いをさせてもらおう 事業が軌道に乗るまで 僕が全面的に資金援助しましょう 」 杏奈の想像の中でこのトレードセンタービル正面一階に 溢れんばかりの花が陳列された店舗が広がった くらくらして気が遠くなりそうだ 「来週には中東に飛び船の問題処理にあたらないといけない」 「まぁ・・・またペルシャ湾でなにか問題でも?」 彼は肩をすくめた 「いつものことだよ ほら君なら会社の事業に精通してくれているから 出張時に奥さんの機嫌を取る必要もない そういうのが僕にはすべてが煩わしいんだ」 大和の言葉の意味は聞き間違えようがなく 杏奈は目の覚める思いだった プライドも怒りもそこには入る余地はなく 彼を信用していいものかどうかも悩んだ 「悪い話ではないと思うがどうだろうか?」 お互い探るように見つめ合った 彼が強い人なのは一目瞭然だ 正人の様な軟弱な面は一分もない 何者にも屈しない強さがあるからこそ 味方に付けば無二の存在となり 敵にまわせば恐ろしい脅威となるだろう しかし夫として 愛する人としてはどうなのだろうか? 杏奈はふいに正人のことが思い出された 彼だって付き合っていた時は完璧だと思っていた 突然杏奈の瞳が曇った 辛そうな表情がよぎったほんの一瞬を大和は見逃さなかった ほんの少しの間杏奈は目を閉じ そしてまた開くと大きく息を吸って気持ちを静め ゆっくりと彼に向き合った 「お断りします」 強い意志でそう彼に言った 杏奈の態度からは芯の強さが感じられた 彼の表情は読めなかったが 揺らぐことのないまなざしが彼女を射るように見つめる しばらくして彼は言った 「わかった」
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