chapter 3 偽装契約

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コンコン・・・・ 「社長・・・モーニング・コーヒーをお持ちしました」 「お入りなさい 」 オフィスの全面窓から差し込む朝日を浴びた彼は 寝不足の杏奈には眩しすぎて 目が痛くなるほどだった 彼は今マホガニー素材の巨大な 事務机いっぱいに書類をひろげて片っ端から読んでいる 昨夜一緒にお酒を飲んだにも関わらず 彼はきちんとしていて相変わらず 逞しい戦士のようだった 今朝のアイス・ブルーのスーツ姿も素敵だった 今はジャケットを背もたれにかけ 真っ白なワイシャツが彼の小麦色の肌に眩しく映えている 彼が杏奈に気づき書類を読む手を止め 杏奈を考え深げな表情でじっと見つめた 途端に杏奈は緊張で 机に置くコーヒーをカタカタ震わせた    「・・・・昨日は・・・・ご馳走様でした・・」   「こちらこそ遅くまで引っ張りまわして悪かったね」 昨日は本当に楽しかった・・・ 彼に偽装結婚のプロポーズされるまでは・・・・   無意識のうちに彼を特殊な目で見ると 彼がそんなに冷徹でもなく むしろとても魅力的にあることを発見して驚いた 「髪は切らない方がいいですよ 女性は失恋したら髪を切るのでしょう?」 そう言って彼は杏奈の肩まである上品な セミロングヘアを眺めていた 思わず頬が熱くなる ちらっと愉快そうに彼の瞳に浮かんだのは 茶目っ気なのだろうか・・・ それとも単に光の具合?・・・ 「あの・・・・    」 その時バタンとドアが開き重役社員達がドヤドヤ入って来た 「社長! マーシャルの貨物が60%集荷遅れなんですよ 今すぐいらしてください!」 副社長が大きなおなかを揺らして海運王に訴える  中高年の役員たちは同じスーツ姿でも 安部社長とは大違いだ ガタンと彼は立ち上がり ジャケットを翻して腕を通した 「行きましょう!」 今彼は足早に事務机にあったスマートフォン3台をポケットに収めてその場を去ろうとしている このままでは今度いつ会えるかわかったものではない 「あっあの!社長!」 思わず杏奈が大和を呼び止めた 彼はくるりと振り返って杏奈を見た 大和と役員全員が杏奈に注目した
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