chapter 3 偽装契約

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「姫野く~ん・・・社長に何か用かい? 私達は急いでるんだよ~ 」 副社長が腕時計を人差し指でトントンと指さして言う 「どうしましたか?」 彼が杏奈の顔を覗き込んでくる こんな役員達がいる所で? どうしよう! でも言うなら今しかない! 「き・・・・昨日の商談の件ですが・・・ わ・・私の枠はまだ空いていますでしょうか? と・・と言いますのは――」 ためらいがちにだが杏奈は もうこの時を逃して無理だと思って言った 自分の声なのに他の誰かがしゃべっているように聞こえる 「・・・と言うのは 心変わりをして 僕の申し出を受け入れるという事ですか?」 と彼が続きを引き取ってくれた 信じられないと言う顔を斜めにして 彼の黒い瞳が杏奈を探るように 彼女の顔を眺めまわす 「社長~~~ッ 」 他の社員達がやきもきして彼を待っている 彼の鋭い目がまっすぐ杏奈を見つめて返事を待っている 意を決して杏奈は彼の凝視に耐えて しっかり彼の目を見つめてキッパリ言った 「はい・・・お受けいたします 」 とは言ったものの杏奈の心を読み取ろう とする彼の黒い瞳を意識せずにはいられなかった 「社長~~~!!急ぎませんと」 困った副社長達が彼を催促する 彼はしばらく杏奈を見つめていたが やがてニヤリと笑ってこう言った 「それでは今日の午後取引に入ろう!」 そう言い残し ドヤドヤと重役社員達を引き連れて 彼は去って行った   一人社長室に残された杏奈は *゚..:。:.   .:*゚:.。:   ガクガクと震える膝を抑えて 立っているのがやっとだった *゚..:。:.   .:*゚:.。:
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