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「姫野く~ん・・・社長に何か用かい?
私達は急いでるんだよ~ 」
副社長が腕時計を人差し指でトントンと指さして言う
「どうしましたか?」
彼が杏奈の顔を覗き込んでくる
こんな役員達がいる所で?
どうしよう!
でも言うなら今しかない!
「き・・・・昨日の商談の件ですが・・・
わ・・私の枠はまだ空いていますでしょうか?
と・・と言いますのは――」
ためらいがちにだが杏奈は
もうこの時を逃して無理だと思って言った
自分の声なのに他の誰かがしゃべっているように聞こえる
「・・・と言うのは
心変わりをして
僕の申し出を受け入れるという事ですか?」
と彼が続きを引き取ってくれた
信じられないと言う顔を斜めにして
彼の黒い瞳が杏奈を探るように
彼女の顔を眺めまわす
「社長~~~ッ 」
他の社員達がやきもきして彼を待っている
彼の鋭い目がまっすぐ杏奈を見つめて返事を待っている
意を決して杏奈は彼の凝視に耐えて
しっかり彼の目を見つめてキッパリ言った
「はい・・・お受けいたします 」
とは言ったものの杏奈の心を読み取ろう
とする彼の黒い瞳を意識せずにはいられなかった
「社長~~~!!急ぎませんと」
困った副社長達が彼を催促する
彼はしばらく杏奈を見つめていたが
やがてニヤリと笑ってこう言った
「それでは今日の午後取引に入ろう!」
そう言い残し
ドヤドヤと重役社員達を引き連れて
彼は去って行った
一人社長室に残された杏奈は
*゚..:。:. .:*゚:.。:
ガクガクと震える膝を抑えて
立っているのがやっとだった
*゚..:。:. .:*゚:.。:
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