chapter 3 偽装契約

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・・・・・・ その日の午後杏奈のパソコンに社内伝達用の 個人トークチャットに 大和からメッセージが入った 安部大和 「5時半きっかりに正面玄関で待っています 僕には時間がありません 相談しなくてはならないことが沢山あります ディナーを取りながら話し合いたい」 杏奈は驚いた 三年間秘書として勤めていて 彼からこんなプライベートメッセージを 貰うことなど一度もなかったからだ 彼は杏奈の個人チャットIPアドレスを知っていたのだ でもそこで思い直した 無理もない彼はこの会社のトップなのだから 平社員の個人トークIPアドレスなどすぐにわかるのだ そして1000人を超える社員の中で社長自ら直々に 個人メッセージをもらえる社員など ほんの一握りだろう 差出人の「安部大和」の文字が急に恐ろしく思えた なんて自分は大それた事をしようとしているのだろう しかし彼のメッセージを見てもう後には戻れないと 杏奈の背筋はかすかに震えた ・・・・・・ その日の5時30分 杏奈は「ディアマンテ国際株式会社」の正面玄関に立っていた 終了ベルが鳴ると杏奈は急いで化粧室に飛び込み 化粧鏡のスペースの一つを陣取り 出来得る限りのメイクとヘアスタイルをバッチリ決めた グレイのウールのツーピーススーツと純白のブラウスを まとった杏奈は冷静そのものに見えたが 自分のした大それたことに 内心ではおびえきっていた ダメ・・・・震えちゃ・・・・ もう取り消しなんかできないんだから・・・ 「あれ~~~?? 杏奈主任?お早いですね~ さてはデートですかぁ~??」 後ろからどやどやとくるみをはじめ 業務終了を得た後輩秘書達三人 が杏奈を見つけて集まって来た そしてあろうことか後輩秘書達はすぐには杏奈の傍を 離れずにそこでぺちゃくちゃと 井戸端会議を始めた
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