chapter 3 偽装契約

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・・・・・・・・・・ 優秀そうな弁護士四人による 杏奈と大和が座っているダイニングテーブルの前に 今回の偽装結婚の取引の詳細の説明が始まった ファイルが個別に置かれ弁護士が口を開いた 「これから行われる取り引きはトップシークレットです 私達しか知りません まず最初にここに秘密保持に関しての契約書があります こちらにサインを・・・・  」 杏奈は心を沈めようと大きく息を吸った 弁護士に用意されていた関連書類に じっくりと目を通して内容を頭に入れたが ページをめくるごとに心が沈んで行くのを感じた そして彼は彼の祖父の残した遺言書に則った 法的文書にサインをした 涼しい顔をするには杏奈にとって一苦労だった 自分が決意した事なのにどうしてまだこれほど 胃が締め付けられているのだろう 希望もしない結婚へ一歩一歩近づいている もちろん今ならやめることはできる でもこのままいつもの何もなかったかのように 暮らすのは杏奈にとっては耐えがたい事だった この契約を見事達成すれば私には 希望の未来が開ける・・・・ 今はただそれだけを考えれば良い だから今こうして弁護士の説明を聞いて その説明が終わると杏奈はペンを取り 震える手で婚姻届と契約書にサインをした そして彼もサインをするのを厳めしい表情で見守った 「婚姻届はこの後お二人の結婚式が終了した当日 すみやかに私共が責任を持って提出させていただきます」 弁護士の言葉に杏奈は申し訳程度の笑みを浮かべた 婚姻届の証人の欄にはすでに誰かのサインが書かれていた そしてこの数時間だけで杏奈の実印まで作成されており あらためてこの計画の重要さと巧妙さを実感して震えた お金が十分にあればなんだって出来る 彼は今週中東に発つ前にすべてをきちんとして おこうと言う心づもりだ もう逃げられない・・・・ 杏奈は途端に暴走列車に乗ってしまった気分だった なぜか自分がただのゲームの駒になったような印象を受けた 「これで取引は成立した これから具体的な打ち合わせをしていこう 忙しくなりますよ 」 彼は少し安堵した顔で杏奈に握手を求めた 杏奈が差し出された手をそっと握ったら 彼にしっかり握り返された 温かくて頼もしい手だった 握られているのがとても心地よい 誰かに触れられるのは久しぶりだ 杏奈はつま先から頭のてっぺんまで熱くなったが それでも手を離すことができなかった
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