chapter 3 偽装契約

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思わず杏奈は自分が言った言葉をひっこめたかった 杏奈はうつむいたままどうしても彼の顔を 見ることが出来なかった これがこの世の一番大事であるかのように 膝をしっかり掴んでいる自分の手をただ見つめた しばらくしてから彼が言った 「―そのお心は?あなたの以前のフィアンセに 焼きもちをやかせるつもりで?」 正人に焼きもちをやかせる? そんな事は考えてもいなかった しかし海運王はきちんと杏奈の説明を 聞かないと納得しないだろう 杏奈は意を決して言った 「いいえ・・・・・ 実は・・・彼は私の妹と付き合っているんです そして・・それを家族全員が知っています 」 屈辱で声が震える 「・・・なるほど・・・  」 「・・・彼に・・ 対してはもう何の感情もありません ただ残念な気持ちだけです でも・・・・私の立場もお考え下さい 家族みんなが私を腫れ物に触るように扱うんです 今の私には・・・・家に・・・居場所がありません」   杏奈は涙こそこぼさなかったが 唇を噛んでここ数日の屈辱に耐え ハァ・・・と息を吐いた 「取り乱してすいません 」 「続けて 」 彼はゆっくり体を杏奈に向けると 片手を口元に持って行き杏奈を見つめた 相変わらず落ち着き払っているけど キチンと自分と向き合って話を聞いてくれている という安心感に勇気をもらい 杏奈は口を開いた 「私はもうあの二人の邪魔者にはなりたくないんです それで・・・私が上手く身を引く方法は あの・・・社長と恋に落ちて・・・ 心から幸せに社長に嫁ぐのだと・・・・ 家族に思わせる他に・・・ ないんです・・・   」
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