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思わず杏奈は自分が言った言葉をひっこめたかった
杏奈はうつむいたままどうしても彼の顔を
見ることが出来なかった
これがこの世の一番大事であるかのように
膝をしっかり掴んでいる自分の手をただ見つめた
しばらくしてから彼が言った
「―そのお心は?あなたの以前のフィアンセに
焼きもちをやかせるつもりで?」
正人に焼きもちをやかせる?
そんな事は考えてもいなかった
しかし海運王はきちんと杏奈の説明を
聞かないと納得しないだろう
杏奈は意を決して言った
「いいえ・・・・・
実は・・・彼は私の妹と付き合っているんです
そして・・それを家族全員が知っています 」
屈辱で声が震える
「・・・なるほど・・・ 」
「・・・彼に・・
対してはもう何の感情もありません
ただ残念な気持ちだけです
でも・・・・私の立場もお考え下さい
家族みんなが私を腫れ物に触るように扱うんです
今の私には・・・・家に・・・居場所がありません」
杏奈は涙こそこぼさなかったが
唇を噛んでここ数日の屈辱に耐え
ハァ・・・と息を吐いた
「取り乱してすいません 」
「続けて 」
彼はゆっくり体を杏奈に向けると
片手を口元に持って行き杏奈を見つめた
相変わらず落ち着き払っているけど
キチンと自分と向き合って話を聞いてくれている
という安心感に勇気をもらい
杏奈は口を開いた
「私はもうあの二人の邪魔者にはなりたくないんです
それで・・・私が上手く身を引く方法は
あの・・・社長と恋に落ちて・・・
心から幸せに社長に嫁ぐのだと・・・・
家族に思わせる他に・・・
ないんです・・・ 」
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