chapter 3 偽装契約

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他に・・・しょうがない・・か・・・・ 大和は心の中でつぶやいた 彼女は契約の時は物怖じしない冷静そのものだったのに 今は幼い少女の様な か弱さを醸し出している 今の彼女の悲観ぶりを目にした大和は 思わず慰めたくなるような・・・・ 心ならずも自分に初めて湧いてきた保護欲を 不思議に感じていた しばらくして大和は言った 「それはあなたにとって必要なことなのですね?」 彼の声は穏やかで思慮深かった 杏奈はうなずいた とても惨めな気持ちだった 大和はそんな杏奈の心を読んで 再び皮肉っぽく口角を上げて言った 「その件に関しましては僕なりに 「演技」に協力できると考えてますが あなたはどうですか?― 僕と相思相愛の演技は出来ますか?」 杏奈はどきりとした「西の海運王―安部大和」と 恋に落ちるなんていったい誰が想像できるだろう でもここまで来たら何でも出来る勢いだった 「誰にも見破られることはないと思います」 杏奈は決意表明をするように答えた 「それではお互い名演技を見せましょう ―それで あなたの都合が悪くなければ僕達は 三週間後には結婚することになります」 と彼が続けた その口調は人と人が結婚するといった感じではなかった 「あなたのご家庭について詳しく話してくれますか? 昨日は断片的に聞いただけなので 婚約者が何も知らないなんておかしいですからね」 杏奈もそう思った ここまでくれば彼が杏奈の家族に 会わなければおかしいし 家族たちの反応にも杏奈は不安があった この三年間秘書としてこの人の傍に仕えていても いつも近寄りがたくて恐ろしかった安部大和海運王が ここ数日でまったく違った人格を現わしていた
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