chapter 3 偽装契約

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・・・・・・・・・・・・・ 杏奈の住む町は関西の大阪市内でも端っこの方で どっちかといえば県境ののどかな町だった   街の真ん中には川が流れていて 川を挟んで一方は新しく発展した ショッピングモールや有名店などが並ぶ街区   もう一方は昔からある静かな旧住宅街という風に 別れている 杏奈の住む家は旧住宅街の真ん中で 茶色い屋根の目の前にガレージがある 典型的な昭和の二階建ての一軒家だった そして同じ時期に一斉に建てられたこの一角は 隣近所ももちろん同じ形の一軒家で 表札を見ないと見分けがつかないほどだった   その姫野家のリビングでは今は 今日の主役の佐奈がスマートフォンを片手に 意気込んでいた 「お父さん!だから先に花園駅で 美奈とまさえを拾って 春日駅で順子とユリをのせてって言ってるでしょ!」 両手の親指を器用に高速で動かし スマホをタップしながら佐奈が次々に父に言う 末っ子でティーンエイジャー真っ盛りの佐奈は 常にスマホを片手にlineやDMで 友達とやり取りをしながら生きている 彼女からスマホを取り上げたら いったいどうなるだろうと考えたら きっと一日も持たず発狂するだろう 「あっ!今の顔盛れてる!」 カシャッとピースサインをして 友達とやり取りをしている間に スマホを自分に向けて自撮りをする
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