chapter 3 偽装契約

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途端に美佐江の鋭い観察眼は 男性の着ている物に向けられた そしてそのすべてが高級品でこの男性がさりげなく 着こなしているのを見て取った 「ええ・・・ちょっとした車の故障でして・・・」 美佐江は少しぐらいならこの青年と 世間話をしても良いだろうと判断した 女のとしての美佐江の勘は 彼の魅力をすぐに見抜いた 豹のように鋭い眼差し 陽光に輝いている濃いブラックの髪 白い丈夫そうな歯 そしてキリリとしまった口元 彼には独特の雰囲気があった 美佐江の目は娘杏奈よりも肥えて人生経験も豊かだったので 彼が上品だが人に命令するのが得意なそうな口調を見て 彼は決してサラリーマンなどではなく 人の上に立つ人間だろうと悟った 「・・・あなたはお買い物ですか?」 美佐江はご近所に天気の話をするように 陽気にかつ礼儀正しく彼に言った 「ハイ・・・・ 実は初めて婚約者のお宅にお邪魔するんですが・・ 手土産は用意したんですけど・・・・ 婚約者に花を買うのを忘れてしまいまして・・」 「まぁ・・・ それは素敵ですね ここのお花屋さんはとても素敵な花束を作って 下さいますのよ、娘が知り合いでね・・・ 」 美佐江はにっこり微笑んだ その青年も美佐江に微笑み返した 「もしよかったら・・・・・ 婚約者に送る花のアドバイスなどを頂けないでしょうか? 男の僕は花の知識はさっぱりでしてね」 「あら! そう言う事でしたら私でお役に立てれば嬉しいですわ これでも花には詳しくてね 娘がフラワーアレンジメントの講師ですの その婚約者さんは見た目可愛らしいお方? それとも美人のタイプかしら? 」   今やウキウキと笑みを顔に いっぱい浮かべている美佐江に青年は 上品に微笑んで言った   「姫野杏奈さんのお母様ですね はじめまして 杏奈さんと婚約をさせていただきました 安部大和と申します 」
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