chapter 3 偽装契約

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それから彼は杏奈を下から上へ眺め見て からかうような奇妙な笑みを浮かべて付け加えた   「職場ととても雰囲気が違いますね お家でのあなたはとても可愛らしくて美しい」   途端に熱い血が頬に登ってくるのを感じて 杏奈の心臓はいっそうドキドキした 誰も聞いていない所なのに・・・・ 彼の様な人がどうしてこんなお世辞を言うのだろう といぶかしく思っていた ――だが 杏奈には見えていないかもしれないが 大和の鋭い眼には先ほどしっかり閉めたはずの 玄関ドアが今は少し開いていて その隙間から何個かの目がクスクス笑いと共に こっそりのぞいているのを見逃さなかった ・・・・・・ 「良いお話よ!杏奈!母さんは賛成よ! いいえ!絶対お受けするべきです!」 台所で二人っきりになるや否や 母が真剣な顔で小声で杏奈に詰め寄る 「いい!杏奈!こんなまたとない機会を逃したら 貴方はバカですよ! 今時12歳差なんかなんでもないわ」 どうやら彼は早くも母を味方につけたみたいだ 彼はショッピングモールからここまで母を 連れて来たそのわずかな間に 母に彼は頼りがいのある娘を幸せにしてくれる 最高の男だと信じ込ませるのに成功したみたいだ それもそのはず今彼が家族に振りまいている笑顔は 杏奈がオフィスでは見かけることが 出来ない魅力的なものだった 西の海運王と業界人に恐れられていると有名な わが社の社長が自分の自宅にいるなんて・・・・ ほんの数か月前には考えもしなかったことが 起こっている 彼は今はリビングのいつものうちのソファーに 座って両親と会話をかわしていて それがとても魅力的な話し方だということをすばやく感じていた 彼の前にはお寿司やらお菓子やらが 山積みになったお皿と 顔を上気させておしゃべりしている母親がいた
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