chapter 3 偽装契約

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それに比べて自分はどう務めても 笑顔がひきつってしまうような感じだった 思いもよらない訪問者と車の故障で 佐奈の友達たちはパーティーがお開きになると タクシーで最寄りの駅まで帰って行った 残された姫野家は家族と大和だけになり 緊張した杏奈が彼の前にコーヒーを置く 「ありがとう、杏奈さん」 彼の挨拶は礼儀正しいものではあったが何年間も 彼女に向かって言い慣れてきたような雰囲気があった 杏奈はおずおずと彼の隣に腰をおろした すると彼が杏奈の方へピッタリと身を寄せた ビクッと杏奈は戸惑いを覚えないわけにはいかなかった 今まで正人以外の男性とこんなに 接近して座ったことなどなかったからだ その杏奈の戸惑いを母親と佐奈は見逃さなかった 積極的な大和の態度に比べ杏奈の態度はどこか よそよそしく控え目に見えた 母は杏奈という娘はそういう性格で 人前で愛情を軽々しく披露するような 子ではないと納得した しかし末っ子の佐奈は違った 佐奈は無邪気な目つきで大和を見ていた 彼が淡々と結婚式の日取りとその後の 新婚生活は半年間彼の生まれ育った島根の離島で 暮らすと説明している時に 杏奈はこの末っ子が次にどんな質問を大和に 浴びせるかと考えて気が気でなかった
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