chapter 3 偽装契約

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その光景を唖然として見ていた 杏奈の肩に彼がさりげなく手を置いた 途端に杏奈はビクリと体をこわばらせて飛び跳ねた 「あっ・・・すいません・・・ 急だったもので・・・    」 婚約しているのだから彼に肩を抱かれるぐらいの スキンシップは普通の事だ それを思い直した杏奈はつつつ・・・と 彼にそっと寄り添った しかし自分の顔が真っ赤になっているのを なんとか家族にバレないようにずっと下を むいていなければならなかった 「ねぇ! 本物の恋人同士ならキスして見せてよ!」 またしても佐奈が茶目っ気たっぷりに二人に言った 杏奈はますます頬が赤くなるのを感じながら 佐奈の頭をピシャリと叩いてやれれば どんなにスッキリするだろうと思った そんな二人のやりとりを見ている佐奈の目に 浮かんでいる疑わしさは 杏奈も大和も気が付いていた 婚約したと言いながら どこかよそよそし気な二人を 佐奈はあからさまに何か訳があるのではないかと その目が語っていた 「この人はひどく恥ずかしがり屋なんだよ」 あっさり彼は言った 「佐奈!大人は人前でむやみにキスなんかしないし 大和さんに失礼よ!」 救いのように母も佐奈をたしなめた 杏奈はなぜかそこから彼が我が家に滞在している間は ずっと彼を意識して緊張しっぱなしで 今や母美佐江までも瞳に浮かんでいる 疑わし気な視線や明らかに二人の仲を 疑っている佐奈の視線を 全身にビリビリ感じていた これはたぶん彼が帰った後は 質問攻めに合うだろうと杏奈は感じていた   しかしそれは当然だ 自分だって今の自分はとてもではないが 疑わしく犯罪者のように挙動不審で落ち着きがない
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