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「どうして妹に優しく出来ないの?
あなたはお姉ちゃんでしょう!
花瓶なんかまた買えばいいじゃない」
「ちがうっ!」
杏奈は激しく首を振った
同じものなんか二つとないこの花瓶で
数々の花を生けて来た大切な思い出がある
母にそれを分かってもらえなくて
杏奈は苛立ちを覚えた
母はうんざりするように小さくため息をついた
「いいかげんにしなさい・・杏奈
カンナはまだ病気が治りきっていないかもしれないのよ」
「ピンピンしてるじゃない!」
杏奈は反論した
だがその声もけたたましいカンナの泣き声にかき消された
その時一階で三女の佐奈もお昼寝から
目が覚めたのか大声で泣き出した
こうなっては育児に疲れている母に話を
聞いてもらうことは不可能だ
とにかく後で母がかたずけに来るから
ガラスはそのままにしておくようにと言って
母はカンナを抱いたままサイレン音のように
泣いている末妹の元へ戻って行った
杏奈はフローリングの床に膝をついた
割れたガラスの花瓶は夕日に反射して
杏奈の顔をキラキラ虹色に照らした
涙で視界がぼやけた
キラキラ反射しているガラスをみていると
様々な感情が湧き上がって来た
初めて花瓶をもらった時の感動
割れてしまった花瓶への諦めきれない思い
怒りや悲しみ・・・・
それから母に愛されたいと願う気持ち
それからしばらくして母が戻って来て
杏奈に言った
あなた達二人とも母は愛していると
えこひいきをしているのではなく
区別しているのだと
あなたは病気にかからなくて運が良かったと思えと
母は何時間もこんこんと杏奈に言って聞かせた
とにかくもう二度と大病をした妹に対して
不満を言ってはいけないということだけは
杏奈は身に染みてわかった
それからあとはただひたすら我慢した
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