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ある朝杏奈は自分の左手を上にかざしながら
リビングの窓辺にもたれて
彼と交わしたキスを思い出していた
今杏奈の左手の薬指には
小さなダイヤモンドがちりばめられた
プラチナ細工の台座の中央に
虹色の輝きを放つ見事な大きさの
ティアドロップ型のダイヤモンドがおさまっている
何度見ても神々しくて圧倒的だ
杏奈は息を飲んで見つめ
陽の光の元で手を傾けてみた
すると光に反射して
ありとあらゆる色が輝いた
宝石の中に無数の宇宙があるかのようだ
こんな美しい宝石は見たこともなかった
そしてこの指輪をはめてくれた時の
彼の漆黒の瞳・・・・
指輪に負けず劣らずキラキラしていた
それからその後のめまいに襲われたかのようなキス・・・・
杏奈のぎゅっと閉じていた口が開いた瞬間
彼の温かくて濡れた舌は物憂げに口の中をまさぐり
杏奈が夢にも思わなかった方法で愛撫を与えた
やがて唇が離れ
杏奈はめまいの中でもっと彼にキスを続けてほしいと
思っている自分に気が付いた
彼のキスの仕方は自分のキスを相手に
気持ちよく受け入れさせる方法を
よく心得ている男性のものだった
正人と三年間愛し合っていた時でさえ
キスとはこういうものだとは知らなかった
彼がそっと近寄って来て・・・・
思わず杏奈は彼を見上げた
たちまち自分の視線が彼の瞳の中に吸い込まれた
いつもは冷たく
人を寄せ付けないように見える黒い瞳の奥に
燃えたつような輝きが宿っていた
何をするつもりなのか気づくのより早く
彼は身をかがめて杏奈にキスをした
二度目のキスはさっきとはまるで違っていた
情熱的であり
肉感的でさえあり
杏奈の全身の感覚を痺れさせてしまうものだった
杏奈の心に驚きの念がかすめたが
それも一瞬の事で
あとはただ・・・
彼の腕の中で我を忘れてしまっていた
あのキスも・・・・・・・
演技なのよね・・・・・
その時スマホのシャッター音が鳴った
杏奈が振り向くと
いたずらっぽく笑っている
有名女子高のセーラー服姿の佐奈がいた
「これ!大和さんに送ってあげよ~っと♪
お姉ちゃんは毎朝大和さんにもらった
指輪を見つめてため息をついてますって!」
佐奈が杏奈を見て笑いながら言った
「た・・ため息なんてついてないわ
ちょっと!今撮ったもの消しなさいよっ」
「や~だよ~!」
杏奈がテーブルを回って佐奈のスマホを
取り上げようとすると
そうはさせるかとスマホを高々に上げて
佐奈が逃げる
二人はキャッキャッはしゃぎながら
リビングテーブルの周りをグルグル回った
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