chapter 4 フェイクな花嫁

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大きな紙袋に沢山の後輩へのプレゼントと 毎晩夜なべして作った一人ひとりに渡す 事務制作引継ぎファイルを紙袋一杯に詰め込んで の大荷物だった 自分がこんなにも早くにあの会社を退職するとは 思ってもいなかったので彼から今週いっぱいで 仕事を終わらせてほしいと言われた時は 驚いたが、今では内心会社を寿退社するのを ありがたく思っていた と言うのもあれから杏奈は「海運王の婚約者」 として社内中の注目の的になっていたからだ まず毎朝正面玄関に入ると ガードマンがすっ飛んできて杏奈に自動ドアなのに ドアを踏んで開けてくれるのだ それからそのガードマンはお天気の話だの なんだのと世間話をしてエレベーターまでついてくる そしてエレベーターに乗ろうとしたら 他のエレベーターも空いているのに 示し合わせたかのように どこかの部署の男性社員が何人も乗り合わせてきて 一言もしゃべらないのに杏奈の顔をジロジロ 見てから必ず婚約指輪を凝視していく どこに行くにも興味本位の目は着いて回り 杏奈はさらしものになったかのような気がした 月曜日以来杏奈はまさに注目の的で 生まれて初めてここまで世間の注目を浴びて 杏奈は今にも圧倒されそうだった 社内報は結婚式はいつどこで行われるのか 二人は今後どこに住むのかなど こぞって「海運王の結婚」について書きたてられた オフィスラウンジも社内食堂も二人の噂で持ちきりだった
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