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「あー、クソ。休日出勤押し付けといて、陰で人のこと”客寄せパンダ”呼ばわりしがやって。あのナガナスがっ!」
”ナガナス”で、日下部さんが怒っている相手が倉庫の壁ではないことが分かった。
長砂さんだ。
お調子者で、要領がいいと自負している彼は、いつも面倒ごとを人に押し付ける。それでいて、あちらこちらで人を馬鹿にしたような発言をする。自分がこの職場で一番賢いと思っているのだろう。でも実際は、この職場で一番見苦しい人だ、と私は思う。
つまり、嫌い。
イライラが収まらない様子の日下部さんを眺めながら、そりゃ腹立ちますよね、と頷く。
日下部さんはたぶん、人前で愚痴らない、怒らないと決めている人。いくらモテても、いくら人気者でも、毎日いいことばかりではないはずだ。腹の立つこともあるだろう。けれど、笑顔を絶やさず、誰にでも優しい。
「味噌汁にするぞっ!」
また壁に向かって日下部さんが大声を出し、ドスンと拳をぶつけた。その振動で、日下部さんの近くの棚から分厚いファイルが音を立てて落ちる。
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