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「お気になさらず。」
そう言いながら、先ほど棚から落ちたファイルに近づいて拾い上げ、元の位置に戻す。
「あ、すみません。それ、俺が落としちゃって。」
「お気になさらず。」
「あの、さっきの、聞こえてましたよね?」
「ええ。お気になさらず。」
「すみません、誰もいないと思って。」
「そうですよね、影のような存在感しかないので。」
ファイルを拾い上げる時にずり落ちたメガネを直しながら言うと、日下部さんが固まってしまう。
「あの・・・そういうつもりじゃ・・。」
「お気になさらず。冗談です。」
真っ直ぐ見つめて言うと、日下部さんが戸惑ったような顔になった。
「え?あ・・冗談、言うんですね。」
「人間だもの。」
「へ?」
「みつを。ご存じないですか?」
「えっと・・・今のも・・?」
「冗談です。」
日下部さんが頭を抱え
「分かりにくい。どうしたらいいんだ。リアクションに困る。」
と小声で呟く。
「お気になさらず。スルーされることもしばしばなので。」
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