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七瀬くるみ
***
十月中旬、午前六時。わたしたちの集合時間は季節を問わず早い。
背中まで伸びた髪を一つに結い、ジャージにシュッと手を通す。新調したスニーカーに踵を押し込み、玄関ドアを両手で開けば、ぶら下がったウィンドチャイムの音色に涼しげな秋の匂いが絡んだ。
ポーチに敷き詰められた赤いタイルを踏み越え道路に出る。軽く準備運動をしていると、いつもと同じ時間にお隣さんの玄関ドアも開いた。
「夏向、おはよう」
「……ん」
わたしの挨拶に一言で返してきたのは幼馴染みの佐野夏向。小学三年生の時にドイツから引っ越してきた同じ歳の男の子だ。
その頃はわたしよりも体が小さく、栗色の毛がまるで子犬みたいだった。でも茶褐色の瞳はいつも無感情。まるで海の向こうの故郷を探すようにぼんやりと遠くばかりを見ていた。
幼少期からおしゃまで名を馳せたわたしが内気な少年の手を引くことは必然となり、夏向も少しずつ私にだけは心を開いてくれるようになった。
そんな過程を経たせいか、同じ高校に通う今でも、わたしたちは自然と隣にいることが多かった。
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