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さっきまで楽しげだった詩ちゃんはすっかり黙りこくり、淡々と弁当に箸を突っ込んでいた。
猫に似たつり目が伏せがちなのは彼女が真剣に考え事をしている証拠であり、一人放置されたわたしも黙ってカレーパンを完食した。
「くるみはさ、本当にそれでいいの?」
水筒のお茶で喉を潤していると、じろりと睨まれる。
「それでって?」
「佐野、いなくなっちゃうんだよ?今更とか、意味が無いとか、それって自分に言い聞かせてるだけじゃないの?このまま別れたら一生後悔するかもしれないよ」
胸の奥を探られるようで居心地が悪くなる。だがこれを突っぱねるには、わたしには自覚が足りなさ過ぎた。
現実に目を合わせられないでいると、聡明な友は戦略を変えてにこりと笑った。
「よし分かった。くるみ、明後日の文化祭は佐野と回りなよ」
「え…」
「迷ってる時間なんてないじゃん。別に告白しろって言ってるわけじゃないよ。最後の思い出作りだけでもさ」
最後。その一言が鈍く胸を突き上げる。
幼さのままに動揺していると、なんとも悪いタイミングで夏向がわたしのクラスに顔を出した。
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