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一目惚れだった。
入学してすぐの放課後。演劇の荷物を運んでいた西宮さんを、体育館で偶然見かけた。
両手で大きな袋を抱え、歯を食いしばって舞台裏を目指す健気な横顔を見た時、僕の人生が始まった。
二年生で同じクラスになれて、少しずつ言葉を交わせるようになって。
どの瞬間の西宮さんも、僕にとっては最高の宝物だった。
想いを伝える勇気なんて、今まではとても出なかったけど。
後悔したくない。
君のそばにいるのは、僕がいい。
今日の二時間目、静けさの中で顔を赤らめる君を見た時、どんな犠牲を払ってでも君を守りたいって思ったんだ。
「付き合ってください」
売店まで十メートルもないこの場所は騒音に満ちていた。弁当を売るおばちゃんの声。教師の愚痴で盛り上がる女子たちの話し声。男子たちの無駄にでかい笑い声。
こんなムードのないところで告白しちゃまずかったんじゃないか。手遅れな焦りが胸にちらついて、全身がいよいよ発火しそうなくらい熱くなる。
桃色の唇が、動いた。
「やっと、言ってくれたね」
見たことないくらい晴れやかな表情がたまらなく愛おしくて、今すぐに彼女を抱きしめたい衝動をぐっとこらえる。
「……ったく、ここまでしないと告ってくれないなんて」
「え?」
「なあんでもない! これからよろしくね!」
ちらっと聞こえた彼女の独り言の意味がよくわからなかったけれど、そんなことどうでもよくなるくらい、世界の全てがきらきら輝いていた。
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