10人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
※ ※ ※
——さっきのお礼に、デザート買ってあげる。
おなら事件から数時間たった昼休み、西宮さんはそう言って僕を中庭の売店に連れ出した。
二人並んで教室を後にし、廊下を歩いて校舎の外へ出る。
全身が汗だくなのは、照りつける夏の日差しだけのせいではない気がした。
「さっきはほんとに、ありがとね」
頰を桃色に染めてはにかむ西宮さんに、「別に、大したことはしてないよ」と平静を装って返す。
「あんなことになっちゃって、わたし、西宮くんにドン引きされたんじゃないかって思ったよ」
ざわざわと何十人もの話し声が響く昼休みの中庭。
だけど僕の耳には、隣の西宮さんの声だけが鮮やかに響く。
「ドン引きだなんて、そんな」
「やっぱりやさしいよね、西宮くん。そういうとこ、好きだよ」
何度も言われたそのフレーズをまた耳にして。
今までにないほど強烈な感情が、ぽろっと漏れた。
「……そういうとこ、だけかな」
立ち止まり、西村さんに体を向ける。
「え」
西宮さんが、驚いた声音とともに足を止めた。
いつもは恥ずかしくて直視できないその瞳に、まっすぐな気持ちを届ける。
「僕は、西宮さんの全部が好き」
最初のコメントを投稿しよう!