第七章 黒幕の抹殺

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「ヤバいぞ」 「早く車を出せ!」  一人が、慌てて運転席に移る。だが遅かった。前からも、パトカーがやって来たのだ。 「車から降りなさい!」  警官たちに囲まれて、男たちは観念したように車を降りた。警官の一人に手を貸してもらって、私も車から降りる。 「お怪我は?」 「大丈夫です。でも、困ったなあ。辻村先生を、お待たせしてしまったわ」  私は、車内に残された自分のバッグを指した。 「例の証拠です。そこに入っているのですけど」  警官が、厳しい顔つきになる。 「中を改めさせてもらっても?」 「ええ、どうぞ。その封筒です」  警官はバッグを開けると、封筒を取り出した。先ほど、男たちがこれは違うと言っていたものだ。 (そう、手紙、では無いんだけれどね……)  男たちには何が何だかわからなかったようだが、あの封筒の中身は、Z輸送から佐久間への、違法献金の証拠だ。以前赤西に調べさせた時、私はそれをコピーして取って置いたのである。ちなみに、辻村がこの近くで待っているというのも本当だ。私は今夜、『派閥の長である佐久間仁の違法行為に気付いた。そこで、辻村に相談するため、ここへ来た』という体になっているのである。 (ありがとう、柳内。予想通りに動いてくれて……)  柳内が佐久間に密告するのも、今夜道中で私を襲おうとするのも、全て想定済みだった。だから私は、『この件の露見を恐れる佐久間に襲われるかもしれないから』と説明して、警察に張り込んでおいてもらったのだ。京亮は、元警察官僚である父親のツテを使ってくれたのである。辻村も、口添えしてくれた。  (そして、今頃は……)  私はZ輸送の社長に、『佐久間は別の運送会社から賄賂をもらって、そちらに乗り換えようとしている。もっと金を積まないと』という虚偽の情報を吹き込んだのだ。世間的には佐久間にべったりと見られている私の話を鵜呑みにした社長は、この時間現金を持って、佐久間宅を訪れているはずである。この証拠と併せたら、佐久間は終わりだ。 (それだけじゃない)  私は先日の柳内との電話を、録音していたのだ。京亮は、彼が父を殺害したと認めた部分だけを編集してくれた。それはこれから、マスコミ各社に流れることになっている。殺人罪に、時効は無い。万一処罰を免れたとしても、佐久間と柳内の政治生命は終わったも同然である。 (長かった……)  私は、ふうとため息を漏らしたのだった。
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