エピソード1

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エピソード1

昔から、家は隣、親同士は仲良し 「ごめんなさいねぇ、星羅ちゃん 朝ご飯作ってもらっちゃって…… 私仕事入っちゃって……あいつになんか菓子パンでいいのに」 「まあまあ、そう言わないであげてくださいよー」 「大体朝食なんて自分で用意しろって話よねぇ もう高校生なんだから」 ワタシは小日向星羅。面倒見のいい美女だ そして面倒見られているのは幼馴染、田中太 ふとしというわりに体が細い、フッツーの男の子 ワタシが気にかけてあげてるのは なにも親から頼まれたから、ではない。ワタシが勝手にやっている ホットケーキが、じゅうう、と焼ける音 甘い匂いがした。 いい焼き目。 甘いのではなくおかずとしてつくったため、サラダとベーコン、目玉焼きをのせ マヨネーズをかける。 それを皿に盛った辺りで、階段から音がした。 「……朝から騒がしいと思ったら また作りに来たのか」 「またってなによ!」 「……とりあえずありがとう」 「とりあえずってのが腹立つけどね……」 太は、あったら食べるしなかったら食べない というくらいしか食に関心がない。 太の両親はもうでかけてしまった。 ワタシはテレビをつけ、太と対面するように座る 「うん、美味しくできた」 「……いつもと同じ味だよ」 「あのねぇ!」 「いつもと同じく美味しい」 「……あ、そう」 太の長い前髪が、暗い目を覆っている。 「あの動物園パンダ入ったんだって」 「パンダってそんな可愛いかな」 「可愛いじゃん、なんか白黒だし……」 「他の動物も可愛いしパンダだけに長蛇の列つくることなくない?パンダ産まれましたて宣伝見るたびにほかの動物も産まれてるんだろうなて思うと悲しい気持ちになるよ…… 人気ない動物が産声をあげても誰も聞かないんだ……」 「朝から長文悲観的だけどなにか嫌なことあったの?」 「べつになんも」 いつもこんな感じの会話だ そして、登校時間になり一緒に家から出た。 ワタシたちはこんな風に四六時中一緒なので 学校ではカップル呼ばわりだし 親同士なんか勝手に、え?結婚するんでしょ?ていう本気か冗談かわからないノリで絡んでくる そして、それらにワタシは嫌な気持ちをもっていなかった ワタシだって、太のことが好きだし でも、わからないのは……。 「今日も同時に教室入ってきて熱いねー」 「ちょっと遅刻じゃない?朝から何やってたのかなー」 クラスメイトのこんないじりに対し うるさいわね!関係ないでしょ!て叫ぶのはワタシだけで…… 太はというと 「……内容わからないとおもったらこれ3巻だったな」 さっさと席について本を読み始めてしまうのだ。 照れるでも、否定するでもなく。 (これって脈なしってこと……?) ワタシはため息をつく 一週間くらい朝ごはん作りに行くのやめてやろうかな。 なにか怒ってる?ごめん て言ってくれればいいけど 「でも、もとから頼まれてもないもんなあ」 放課後 友達と約束したカフェへ先に行って待つ。 窓際の席、観葉植物がちょっと邪魔だった。 長居するため、アイスじゃなくてホットのココア。 「ココア700円は高いなー ただでさえ今月コスメ買いすぎたのに」 でもいい、口紅の色 鏡を見てワタシは自分の顔を何度も確認する ワタシは黒のセミロング、白い肌、あとEカップで結構化粧もしまくってて大人びている。 ミスコンにも優勝したことがあって スペックは申し分ないのでモテている。 でも意味がないんだ 本命だけが無反応だから。 「ううん……逆に美人系だめなの?かわいい系がいいの?でも身長ばっかは変えられないなー」 ワタシがそう頭を抱えていると いつのまにか友達が来ていた。 ソファ席に座り、メロンソーダを注文している 「おまたー 最近どうなの?進展の方は あ、いい加減星羅からアプローチした話じゃなくて向こうからなんかあったか聞きたいわ」 「そんなだったらないよぉ 勝手に抱きつくとか全部こっちからだし ずっっと一緒にいる異性に改めて異性として意識してもらうのって難しいのかなあ…… 離れるべき?」 「ううん……てか そもそもなんで太のこと好きなの? 幼馴染ってこと一旦忘れてみ?と教室のすみにいる男子と思えば モブ枠じゃない?正直もっといい男みつけられると思うんだけど」 友達、未来尚の 茶髪のパーマが揺れている 気が強いけどいい子なのだ。ミスコンでワタシに負けたのに素直に眼の前で悔しがり 次は負けない、ていって友達続けてくれる感じ 気持ちいい子だと思う。 好きな男の子のタイプ、かぶらなくてよかったあ。勝ち目ないな、て思う。素直に 「惚れた理由……かぁ」 なんか、いるのが当たり前すぎて 改めてっていうのはないんだけど ◆◆◆ はじめて会ったときは、好きになるとは思わなかった。 「遊ぼー遊ぼーよ」 「本読んでるの、あっちいって」 はじめましての挨拶がすんで数日 ワタシは外で遊びたい、太は家の中に居たい 好みがはっきりわかれてて 正直一緒にいてもつまらなくて 無視されて一方的に怒るワタシ そんなワタシたちはすぐ不仲になり、親は困るばかりだった。 離れたいと何度思ったことか でもその付近にすむ子は学校も同じになってしまうので 会わないっていうのが無理な環境だった。 寝坊で遅刻する太が、ワタシを避けるためにわざとやってんじゃないかと思って ちょっと家の前で待ってみては 馬鹿みたい、一生ぼっちでいろしと愚痴って先に行くのが常だった そして 「ねー、たまには一緒に学校いくー?」 「……いや、いい 学校では話しかけないでほしい」 「はぁあ?!もう知らない!」 これが決定的に亀裂 馬鹿じゃないの 会いたくなくても会うんだからこれから先長いし付き合い良くしといたほうがいいのに なんでそのくらいのこともわからないかなあ あーあ、どうせ幼馴染ならもっと 気が利いて優しくて格好いい男の子がよかった 「おはよー」 「おはよー聞いてー昨日たっくんが」 クラスは丁度恋愛ムードで ワタシもそれに乗りたくて でも恋したい相手がいないワタシはため息ばかり。 流行りの恋愛ソングを聞きながら いつか王子様が現れますように、て祈りながら 彼氏なしの友達と遊び続ける。 「えー皆さん、最近やたらと物がなくなりますが いじめを見たという方がいたら正直にー……」 ホームルームの時間 ワタシに関係ない他人の不幸を聞き流して 話が終わったので席を立つ。 キーンコーンカーンコーン…… 帰り際、いつまでも帰らないで 裏庭でなにか探している太に窓から話しかけた いつもは無視するが、この日は親同士交えて食事会、バーベキュー予定だったからだ 太のことは苦手だがその苦手意識はバーベキューの食べたさよりは下だった バーベキューは楽しいので。 「ワタシ、先帰ってるからねー!!」 その、次の日からだった。 普通に登校したら靴箱の中から、上履きを取り出した途端、布が落ちてきた。 プレゼントとかではない、異臭を放った 汚い布……というか雑巾だ。 他に細々としたゴミも一緒に落ちてきて しばらく立ち尽くした後 ワタシは、ワンテンポ遅れてあ、これいじめだ と気づいた。   犯人だれだ 殴って片付けさせてやる とイライラして周囲を見回した途端 「星羅!」 声がした。 いつになく大声で必死だったから、誰だか最初分からなかった。  入り口、傘置き場のとこで息を荒らげていた太はそのまま走ってワタシの靴箱の前まで来た。 そして、素手で片付けようとする。 「ちょ、汚いって……」 「ごめん……」 「え?」 「うっ……ぐすっ……だから学校では話しかけてないでって言ったのに あんな大声で話しかけたら、皆に勘違いされるに決まってる 僕がいじめられてるから…… 巻き込まれたんだよ……星羅は」 大粒の涙をぼろぼろとこぼして 震える唇でそう言われた時 胸が締め付けられた。 「泣かないで……太 大丈夫、大丈夫、ワタシが護ってあげる」 哀れな男に同情してると言われればそれまでなのかもしれない でも、ただワタシを拒んでるのかと思いきや ワタシを護るために突き放していたんだと 知った日その日から 釣れない態度や、冷めた目や 危なっかしさが、とても愛しく感じて 一人じゃ危なっかしいよ ワタシがいないとだめでしょ? そう思うようになった。 ◆◆◆ 「あーダメ男にハマるタイプね」 尚はわかったわかったとそう言う ちょ、まとめ方! 「そのあと星羅へのいじめは大丈夫だったの?」 「まーワタシは犯人教室入ってすぐ探すほど気が強いし、いじめたほうが泣いてたね あと親も警察だし怖いんだと思う 太のほうのいじめは……時間が解決したって感じだったな」 「ああ、べつに太のほうのいじめは気にしてない」 「えー、気にしてよ! 太だってそんな悪いとこばっかじゃないんだよ? えーと……えーと マラソン大会一位だったんだよ」 「あの誰もまじめに走ってなかったやつね なんか陰キャてマラソンと卓球だけは得意だったりするよね」 それは偏見がひどいとおもう。 「ま、どうでもいいけどさ」 減ったメロンソーダがバニラと溶け合い、白く泡になっている。 そろそろ帰らなきゃ 「ちゃんと両想いになれるような 星羅が幸せになれる恋しなよ」 「うん!大丈夫 太にはワタシしかいないし それをいつか気づかせるんだ!」 「うーんその前提がそもそも……案外彼女いるかもよ……」 「もーやめてよフラグ立てるの!」 そんなのは、嫌だよ。認められない。 消えかけの街灯 暗い道 家の前、太の母親が心配そうにキョロキョロと周囲を見回していた。 ワタシは驚いて駆け寄り声をかける 「どうしたの?おばさん」  「あらー……ねぇ星羅ちゃん、太のことなんだけど ……最近遅くまで何してるか知ってる?」 「え?!帰ってないんですかあいつ」 「ええ……部活をやってるわけでもないのに」 おかしい。 最近一緒に帰ってないから気づけなかった これなら朝だけじゃなく帰りも一緒すればよかった。 太は出不精で学校がきらい。 趣味も特にない、帰宅部があったら主将になるくらいにはまっすぐ帰宅するつまらない男だ。 それが帰らないなんて相当な理由がある 「また……いじめられてるんじゃないかって」 そう言われてー…… 胸がキュッ、とした 太……親に心配かけてまで、あなた夜の学校で何してるの?
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