エピソード4

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エピソード4

『今週の最下位は射手座のあなた! とくに恋愛が最悪!見切りをつけたほうがいいかも?』 テレビから爆音で占い結果が流れる。 ちょっとお父さん音量大きくし過ぎ、心臓に悪いからやめてよ、じゃなくて内容に おもわず目玉焼きの黄身を箸でぐしゃっと潰してしまう。 なんかやばいかもと思ってたけど、やっぱり? 前までは脈なしとはいえ、朝ごはん作りに行ったり、起こしたり、急ごうと手を繋いだりノリで抱きついたりしてた でも、最近はそれが全部できない。 太はなぜか伸ばした前髪を真面目に切り、服もシワがなく、起こさなくても自分で起きてて、まあヨーグルト食べてるだけだったけど朝食もすまし、はやめに家を出ることすらある。 そんななのにワタシが押しかけるわけにもいかず、太の母もやっと息子が真面目になってくれたわ星羅ちゃんのおかげよー、なんて言うんだけど ワタシ的にはまじめになられた方がショックで。 ずっと手のかかる男の子でよかったのに ワタシから離れて男の人になったみたい。 相変わらず学校にいつまでも居残りするし どこか遠くを見て、微笑んでいることもある ワタシにむけない、愛おしそうな目を。 「…………」 せっかくの休日 家は隣 なんとか、なんとかできないか。 ワタシは電話していた。 頼りの親友、尚に 「ーー……てことなんだけど なんか進展させれないかなあ もうこっちから告白するしかないのかなあ 今の状態って勝算ある?!」 『うーん、まあ真面目に朝活動するようになったのは善かれ悪かれ心境の変化があったからだよね星羅に見合う男になろうとしてるのかもよ?』 「すごく……プラスに考えたらそうなるけど ……でも不安ー!いっつもワタシから絡んでそれでいちゃいちゃしてたのに もうそれすらも許されなくなったら向こうからアクションなんてゼロなんだもん……」 『なんか思うにさあ、太って星羅のことを当たり前に隣にいてくれると思ってるんじゃない? 急いでアピールしなくていい、放置してていい子みたいな 引いてみたことある?嫉妬とかさせてみなよ ありきたりだけど嫉妬で自分の気持ちに気づくっていうのあるよ 普通の人に彼氏役頼むと後がめんどくさいから レンタル彼氏とかに依頼してさ 彼氏でーす、て紹介してみて、そんでもやもやさせれれば勝ちだよね』 「……たしかに、引いたことなかったな」 押しかけ作戦が無理ならもう引いてみるしかない そして、引いても来てくれないなら…… それこそこの想いに区切りをつけたほうがいい、のかも……いや、でも 隣同士だよ、幼馴染だよ、一番近くにいる魅力的な女の子だよ?! 「普通好きになるじゃんー! それとも何?恋愛とかしないタイプなのかなー!」 とりあえずレンタル彼氏作戦決行だ。 はじめてサイトをみるけど、緊張する これ後々広告とか出まくったりしないよね 大丈夫だよね ある程度要望を伝えとくとその通りにしてくれるらしい。 『やっぱ太にないものをズバンと見せつけたほうがいいよ 背は180センチ、難関大学の、超イケメン  これでいこう』 「うん、そうだね……」 まあ、これでいいかなという顔写真が浮かび 丁度あいてるみたいだったので予約した よしよし、あとは…… 太にメッセージを送る。 『今日15時くらいからあいてる?もしあいてたら 〇〇駅、公園広場で会いたい 紹介したい人がいる』と たまたまこの日は用事なかったらしい 太は、一言 いいよ、なんか挨拶手土産持ってったほうがいいやつ?と返してきた 突然の誘いに礼儀がなっている。 手土産なんて、ワタシのほうがもらいたいよ いらない、いらない、来てくれればいいの それで。 とびっきりお洒落をする。 レンタル彼氏のためじゃないんだよ ワタシのおしゃれは全部、全部、太の為。 「しょ、紹介するね!ワタシの彼氏の……」 いざ時間がきて、ばくばくと心臓が飛び出そうなほど緊張する あ、名前、名前どうしよう そう思っているとレンタル彼氏は気を利かせてこう言ってくれた。 「ヒグチです。よろしくお願いします 男友達?幼馴染?の太君」 これはいい感じに煽っている リアクションとしてはどうだ?と思い、太の顔を覗き込むと完全にノーリアクションだった。 はあ、どうも という感じだ、ちょっとやっぱこの作戦失敗なんじゃないのかな…… 「で……その、挨拶すんだけど帰っていいの?」 「いや!太も含めて3人でこう……映画とか水族館とか行きたいの!」 「デートの邪魔でしかないと思うけど……」 「まあまあ、そう言わずに 俺は気にしないよ?付き合って俺たちまだ日が浅いから緊張してるんだ 第三者がいてくれると助かるよ」 こういうのに慣れているのかレンタル彼氏はすごいフォローしてくれる ありがたいなあ。 お仕事お疲れ様です。 ワタシたちは3人でとりあえず映画館に行った あんま見たいのがなかったのでレンタル彼氏に見るものを選んでもらう ……ああ、映画館はいいな どれだけ気まずい相手でも黙っていれば時間がすぎるし終わった頃には共通の話題ができているのだ。 「え、映画楽しかったね!」 「そう?星羅どうかしてるよ 久々のクソ映画だったと思う」 「俺は主演女優太ったなーと思ったよ」 感想が三者三様でまとまらずさらに気まずくなった。 こんなこともあるなんて…… というか映画選んだ理由女優みたかっただけか!もう! 「じゃあ次は水族館ね!」 男二人が帰りたそうな顔をしているので ワタシが仕切る 入り口まできて、太はぽそりと呟いた 「二人でまわってていいよ 僕ナマコ一時間見てるからさ」 「そんなんで一時間つぶせるわけないでしょ!」 ああ、水族館、久々にきたな おもえば、こんな形で嫉妬させるために じゃなくて普通に太を誘って遊びに来たかった 子供の頃来たそれはリニューアルしてるらしく水槽の形が変わってて 空をイワシの大群が飛んでいくようで 上も下も右も左も、真っ青な世界。 レンタル彼氏はそんな中、ワタシに耳打ちしてきた。 「俺、それとなくはぐれるから 二人で話し合いしなよ」 「!それがいいですね ありがとうございます」 恋人設定なのでひそひそ話してても違和感ないのがいいことだ 深海コーナーは暗くなっていて はぐれるのに丁度良かった 太の手をつなぐ 「……星羅、彼氏と間違えてるよ」 「……ああ、ごめん あれ、どこいったんだろー、まあいいや ちょっと話しあってさ……太に」 「え、僕に?」 「……うん、あのね……太はさ、微塵も寂しくないの? ワタシたち昔からなにするにも二人で 虫取りにいったり変な洞窟探検したり 秘密基地つくったりしたじゃん 最近でも家で一緒に映画みてお菓子食べてさ…… けど ワタシに彼氏できたら これからはずーっと彼氏優先で 太と過ごさなくなるんだよ 二人きりで会うのもNGだよ 連絡も気安くできないよ それが、寂しくないの?」 直球に聞いてしまう 深海コーナーをぬけて、明るくなる 眼の前、イルカがくるりとターンした お願い、寂しいって言って そしたらワタシ、太と……太と一緒に 「そりゃ寂しいよ」 水槽をみる太の目は、青い。 「星羅はぼっちの僕にずっとかまってくれた唯一の親友で心やさしい、幼馴染の女の子だから……でも」 「でも?」 「男女だから、付き合わない限りはいつか距離ができるのは覚悟してた それでも、たまにやりとりして無事を確認できたら、それでいい 僕がちょっと寂しいなんて気持ちよりも星羅の幸せが優先だから」 ……その寂しさは ワタシと付き合えばなくなるんだよ? でも、そういう話じゃないのかな 寂しいくらいなら付き合おう てならない種類の寂しさだったのかな なら……じゃあ、どうすれば 「だからもう、これからは僕を彼氏さんとのデートに誘わなくて大丈夫だよ いつまでも星羅にばかり、頼らないから」 「……ッなによ、馬鹿!そういうんじゃない! ワタシが聞きたいのはそういう言葉じゃない!」 太は驚いている そうだろうな、意味がわからないよね でもつらいんだよ ワタシを頼らずに一人でちゃんとするって それはいいよ? でもちゃんとした結果あなたはどこへいくの? 太のシャツを掴んだはずみで、チャリン、と太のポケットからなにか落ちる この水族館の土産コーナーに売ってた イルカのクリスタル、青白くて、とてもきれいな 「……誰宛に買ったの?」 「……そのうち、紹介するよ」 ワタシ宛じゃないのは、すぐにわかった。 それだけが寂しかった。 「というか、本当にそろそろ彼氏さんはどこいったの?」 「ん?え、えーと」 忘れてた。スマホを見るとー…… 『いい雰囲気ですね、頑張ってください それと自分3時間5000円って話でもう時間きたんで先帰りますね またのご利用お待ちしてます』 「はぁあ?!帰ったの?!」 しまった、思わず声に出ていた 隣で気の毒そうに固まる太 「やっぱ僕がいるのが気に食わなかったんじゃないの……」 「いやあ、そういうわけでは……」 気まずい、えーと…… こんな空気をなんとかするために 「よし!二人でペンギンに餌やって帰るわよ!」 こんな時にも明るい気持ちになれる ペンギンはいいものだ、本当に。   馬鹿みたいに、ワタシもそのイルカを自分で自分用に買った 「……全然ワタシの好みじゃないや」 こういうのが好きな こういうのが似合う子なのかな 次の日、そんな悶々を抱えたまま ぼんやりと過ごす やっぱりレンタル彼氏のもう一度ご利用くださいみたいなのがしつこい……。 「へぇ、星羅ちゃんってレンタル彼氏とか興味あるんだ、もしかして結構遊んでる?」 「へ?」 もう二度と利用するもんかという気持ちで広告を消していると、後ろから声がかかった。 体育教師の松田だ。 ちなみに、うちの学校はスマホの持ち込み自体が禁止ではないので没収されることはない。授業中に使うのはやめようね というだけだ。だから皆授業終わりのチャイムが鳴った途端鞄からスマホを取りだす 教師側からみてると生徒全員が同じ動作をするの、ちょっと面白いだろう そんなこんなでワタシは休憩時間なのでスマホをいじっていただけだから何も悪くない 内容がちょっとあれだっただけで。 ……てか勝手にのぞきこむなよて話じゃない? 「そうだ、星羅 放課後体育館で補修だから、忘れるなよ」 ちゃんと用があったらしい 肩に手を置かれる わざわざ触らないでほしいんだけど 気持ち悪いなあ 「えー?!ワタシ体育の成績いいほうじゃないですか」 「高跳びの時、バーを落としただろう」 「そんなのクラスのほとんどそうじゃないですか」 飛べたら次、と高さを変えてって 全員脱落したら終わりという授業だった。 太は一番低い段階から足があたってバーを落としてて 相変わらず運動神経悪くて面白かったなあ 「もう少し練習すればいけそうな生徒には声をかけてるんだ、お前だけじゃないから安心しなさい」 「えー……」 べつに上目指す必要ないんだけど 高く飛べたからってなんだっての しかし教師の言うことは絶対だ。ワタシはしぶしぶ了解した。 あーあ、久々に待ち伏せでもして 太と一緒に帰ろうと思ってたのに 今週恋愛運最下位なわけだわ…… 「今週だけじゃない……もうずっとか」 押してもダメだし 引いてもダメだし もう答えはでてるんだよね 告白して、そして、多分フラれて終わりだ。 だったらきっと告白なんてしないで 隣をずっとキープして、いつかワタシの魅力に気づかせるとか 居るかもしれない彼女のほうを嫌がらせて離れさせるとかのほうが勝算あるかも 放課後 ワタシは体操着姿で体育館に入る 今日は部活している生徒もいなかった いつもうるさい場所が静かだと、不思議な気持ちになる。 先に準備運動でもしてようか、てか バーとか自分で用意しないといけないのかな めんどくさ。 けど、とっとと終わらせたいし……と ワタシが体育倉庫に入った途端 「来てくれたのか」 体育教師の声がして そしてなぜか電気が消えた。 一瞬で、あ、これただ補修するだけじゃないかも やばいかもという考えがよぎった。 そういえば視線がキモいとか よく言われてたっけ 突然掴まれたので、ワタシは手を振り払う でも、それ以降動けない。 なんだろ普段痴漢なんて殴ればいいんだよ!て友達同士で盛り上がっている時の余裕が まったくない。いざこうなると 一対一で向き合うと恐怖が勝ち、逆らえないと思ってしまう 殴ったって無理じゃん 体格違うし、横をすりぬけて逃げることもできなさそう 震えてゆっくり後ろにさがる バク、バク、バクと心臓が破裂しそうで 「ほら、いい子にしろよ」 「い、いや……」 せめて、叫ぼう 声でるかな? そう思って息を吸った時ー…… 「星羅!」 バン、と扉が開いた。 光がまぶしい、太の姿がそこにあった 一気に緊張が解ける。 横には教頭も居て驚いた顔をした後 キッと体育教師をにらみつけ、歩み寄った。 そこからワタシはすぐに逃され、教師同士の話し合いになった。 多分、手を出されたのはワタシだけではない 掘れば色々他にも悪行が明るみに出るだろう でも、もういい。 現行犯だしそれなりの罰は受けるだろうから 今はそれよりも ワタシは太に抱きついた 意識してもらう作戦とかではなく、本当に安心して、抱きつきたいと思ったから やっぱり、クラスメイトがどんなに冴えない冴えないっていったって、ワタシの運命は あなただけなんだよ。 「太、太ぃ……」 「何もされてない?ごめん少し遅くなった 僕だけで乗り込んでも殴られて終わりかなと思って 松田より強い立場の人連れてこなきゃなと思って」 「……ううん、助けてくれてありがとう だ……」 大好き そう言おうとした途端、なんだか言葉が詰まる   夕暮れ 帰り道 久々にそのまま一緒に帰ることには成功した。 数カ月ぶり なんか緊張しちゃうな 「しばらく送り迎えしたほうがいい?」 ……でも、狙われたから仕方なくって 義務感だったら嫌だなあ 「……いや、いいや 手掴まれる以外なにもされてないから そんな気にしなくていいの」 「……でも怖かったでしょ たとえ数秒だろうが実際されたことは大したことなかろうが その時の恐怖は、僕が想像できないほどすごいとおもう 星羅が……無事で良かった」 「……うん」 「防犯ブザーとかつけて歩いたほうがいいと思うよ」  「……ふふ」 「?なにがおかしいの」   「いや、いつもと逆だなと思って、いつもワタシが太を心配してた……」 「失礼だな、僕だって星羅を心配するよ」 家の前 太も当たり前に自分の家に入るのかと思いきや、なぜかUターンして学校の方へ戻ろうしていた ワタシは呼び止める 「ね、ねぇ忘れ物?」 「え、ああ……そんな感じ」 「……嘘、彼女に会いにいくんでしょ イルカのやつ、あげるんでしょ」 「えっ」 「ワタシたちの仲じゃん!なんでも話してよ!」 ワタシが泣くと、気まずそうに太は目をそらした 「……うん、いるよ……彼女」 「……」 「……訳あってその……基本学校で会ってるというか ほんとにいい子なんだ 健気で……可愛くて……傷つけたくない 僕の本当に好きな人 ……星羅が危ない目にあってるって教えてくれたのも彼女なんだ」 「えっ?!」 「その、たまたま職員室に入り込んでたまたま松田の引き出しあけたら隠し撮り写真がたくさんでてきて 星羅が危ないって気づいてくれて僕に報告してくれたんだよ」 「……」 それってどんなたまたま? 冗談でからかわれてるように見えないし でも、なんていうか悪い予感は的中するんだなあというか 納得がいってしまう 嫌いな学校に必要以上に居座るのも、最近身なりがきれいなのも、ぼーっとしてるのも あまりワタシがベタベタするのを良しとしなくなったのも 全部全部 彼女ができたからだよね 当然の変化だったんだね 立ち尽くすワタシ 離れていく影 ワタシ、ワタシは………… 「でも彼女の顔見てからじゃないと諦められない!」 こちとりゃ片想い歴10年よ! 負けてたまるもんか!
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