エピソード5

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エピソード5

星羅を送り迎えし、学校に戻ってきた 今日はどこにいるだろう?と思いながら 扉をあけていく。いつもは、事前に明日は此処にいますねて聞いてたり、後お気に入りの場所は限られているので、そんなに探すのは大変じゃなかったりする。 けれど少し不安になるのは、見えなくなってしまったのか 成仏してしまったのか 歩くごとにそんな気持ちが増すんだ。 別館の柊さんが自分の部屋として使用している空き教室 なんか物音する ここかな。 「星羅ちゃん大丈夫でしたか?!」 「わっ」  ガラッと開けると同時 おもわず、飛び出てきた彼女に、ぶつかると思って転んでしまう、べつにぶつかりっこないのだが 「あーごめんなさいー驚かせちゃった 立てますか」 「大丈夫大丈夫、勝手に驚いてごめん」 「…………そして……あの、星羅ちゃんは無事でした?」 「うん、なんとか間に合ったよ 手掴まれた以外はなにもされなかったらしい あの教師も……まあクビになるんじゃないかな」 「よかったぁ」 心からの笑顔、本当に心配してくれていたんだと そう感じる ほんと、人の机の中勝手に見る癖があって助かったよ ……あれ、僕の机も見られてたりするのかな 綺麗にしないと幻滅されるかも…… 「柊さん、机の中きれいな人と汚い人どっちすき?」 「どっちも面白みがあってすきです!」 「よかった……」 本当、なんでも受け入れてくれるタイプだなあ だから、心配になる 僕と星羅の関係、星羅には彼氏いるみたいだし ただの幼馴染でしかないのだが 実際彼女からみたら距離感近すぎるよな? どう思ってるんだろう 星羅のこと 僕のこと 「……ねぇ、変なこと聞いていいかな 僕にとって星羅は大切な幼馴染だ でも柊さんにとっては一回会っただけの人 なんで……そんなに必死に助けようとしたの?」 こんなこと聞いて嫌われたらどうしよう けれど柊さんは嫌な顔ひとつせず 「当たり前じゃないですか 女の子の純情を汚す人は許せません!」 そう、言い切ってくれた。 ああ、きみにとっては それが誰であろうと、関係なく手を差し伸べてくれるんだな 嫉妬の感情とかないのは残念だけど それより澄み渡った彼女の魂に癒やされるようだ。 「それに……学校で起きた、こういうことに関わるのはじめてじゃないんですよ 私、自分が手紙をかけることは知ってましたから 最初は幽霊らしく とくになにも怒ってないのに許せんて書いてたんです」 「……まあ、悪霊ぽいコメントだよね」 「……でも、周りに親切にされ続けて病死の私に 恨むものなんてないし…… そんなことより、もっとなにかできないかなと思って そしたら浮いてるときに校舎裏でいじめられてる人をみつけて、正義感強めな先生に気づかせようと机にそのことを告げるメモを置いたんです ……この、正義感強め、てのが難しくて 5人くらいには普通に無視されました いたずらだろう……て でも繰り返してるうちに新米の先生に響いたらしくって そしていじめが明るみに出て…… いじめっこも親に伝わると弱いですから 物の弁償とか保護者同士の謝罪とか 便乗してた教師のクビとか 色々あって…… いつしかこの学校はいじめっ子のほうが立場が弱くなっていきました」 「……たしかに、ドラマみたいにいじめが激しすぎるのも嘘くさいから 皆、我関せずの これが自然なんだと思っていたけど…… それにしたっていじめが少なかった……」 僕はいじめられていないし、僕から見て 他の誰も、とくにいじめられていない。 無理もされてなくて、皆好き勝手過ごしてる感じ 「……すごいな 柊さんは 僕は肉体がずっとあるのに、なにもしてこなかったよ」 僕は、なんてやつなんだろう 学校を嫌がるだけ嫌がって 状況を変えようともしないで 「……柊さん 僕さ、昔……いじめられてて」 「え!そう、だったんですか……」 僕は話した。 運動会の日に体調不良で休んだのが、いじめのきっかけだった。 役立たずて貶されて毎日のように上履きや鞄を隠された 目がキモいといわれ、隠すために前髪を伸ばした 声がキモいといわれ、届かせないように小声になった 心に壁をつくって、なにもかも遠ざけた そんな、過去の事を。 「……今更蒸し返すことでもないんだけどさ それでもやっぱり、学校ってとこがそのせいで息苦しくて でも、柊さんが、僕の好きになった人が 学校からいじめを無くそうとしててくれたことが 嬉しい……」 情けないことに涙が出てくる べつに、僕が直接救われたわけじゃない でも、彼女に救われたいじめられっ子は きっと僕と同じだ だったら、あのときの僕が救われたようなものだ 自分がもう亡くなっているのに 助けたところで誰にも感謝なんてされないのに たった一人で…… 孤独な戦いだっただろう 「柊さん……柊さん」 「……はい」 彼女もつられ泣きをして僕の頭に手を置く 僕も彼女の頭を撫でたかった よく頑張ったねって この手がすり抜ける前に君に会えていたら。 「柊さん……ずっと怖かったよね 皆と同じように動けなくて、愛されても応えられなくて 時間がたてばたつほど苦しくなって その苦しさの中では、だれの想いも届かなくて そんな辛い肉体から解放されたら君は今度は一人になってしまって…… もう、遅いのかもしれない でも今からでも君を幸せにしたい」 腕をふわり、とまわし抱きしめてみる。 なにも感覚がない でも、たしかに居る、あたたかい。 「愛してるよ」 夜の教室。 机に置かれたクリスタルのイルカが キラキラと僕たちを見守っていた。 そんな、静かな空間で 「やっと見つけた!!」 空間を切り裂くような声 しまった、と思ったときは遅く隠れる必要がないのに柊さんは、きゃー、と机の下にもぐっている。 「どこなの?太の彼女は」 「……そんな勢いで来られたら隠れちゃうよ」 「あ、ごめん ただ、ほら、ワタシも彼氏紹介したじゃん? 対等に太の彼女も紹介してほしいなって そのほうが今後もさ……友人として付き合ってくのにいいでしょ?そういうの嫌がられる彼女なら……距離置くとか複数人で会うとかにするし」 だから出てきてーと子猫を探すような声で 囁かれる 柊さんはそれにあわせて はい、て出てきているが、見えてないんだよなあ どうすべきか 僕が変人ってことで話をまとめると それはそれでややこしくなる 彼女いるっていうの隠せなさそうだったから言っちゃったけど可能ならばずっと言いたくなかった……探られるのは、嫌だし 「ワタシ、ほんとに感謝してるの あのまま誰も助けにきてくれなかったら、今頃…… ワタシが隠し撮りされてたのに気づいてくれて ……本当にありがとう」 姿が見えないから とりあえず伝えたいことを言い出した星羅に 僕はすこし考え込む 隠し撮り……あ、そういえば 写真に疎すぎて思いつかなかったけど そういえば心霊写真とかあるし もしかして柊さんて写真にはうつったりしないかな? 僕はとりあえず柊さんがいるとこを写メってみた。 「ちょっとぉ、普段撮影なんてしないのになんのつもり?」 「…………あ…… 星羅、紹介するね これが僕の彼女のー……柊さんだよ」 すごい、まさかこんなにはっきりうつるなんて 星羅の前に緊張した笑顔で 立ち尽くす彼女は写真の中でも白く、美しく 整った目や口、長いまつげ 人が美しさを意図して追求したような造形は己の意志で動ける人形のようで 星羅は写真をみて 眼の前、なにもない空間を見比べて つぶやく 「え……?えーとなんて言うんだっけ…… 最近ゲームとかで……AR? リアルにCGの映像重ねるやつ 太……それを彼女っていうのはさすがに痛いってもう……こんなことなら心配して損した」 「…………」 ……そうきたか。 最近の技術が発展してるばっかりに まてよ?彼女の姿もしかして 動画撮影でもうつるか?そしたらさすがに合成というには限界があるんじゃなかろうか 僕は もう帰ろうよという星羅に、星羅自身にスマホを持ってもらう そしてー……柊さんが喋り終わるまで 撮影して、それを再生してもらった。 その瞬間、ずっと訝しげにしてた星羅の表情が変わる 「え?……とくになにも読み込んでないのに うつってる そういえば周辺もなんか寒い……し ゆ、幽霊?!」 とりあえず、ほっとした 僕が妄想でゲームキャラを彼女といいはり壁に話しかけていると思われたら精神病院に連れてかれてしまうところだった 星羅はおせっかいだから、それくらいはするんだ あれ、でも 幽霊だとしても同じことか 変なやつと思われてしまう でも、僕自身は真剣なんだ それを説明するのが大変で……ずっと柊さんと二人きりで居られたら、僕はそれでいいのに。 「はじめまして、星羅さん」 動画の中 怖くてガタガタとふるえ 逃げようとしてた星羅に、やさしい声がかかる 直接会話が聞こえないからワンテンポ遅れた感じになるんだな 僕はとりあえずノートにかきこむ。 写真、動画撮影はできる。そうした場合、誰でも彼女の存在を知ることができる これなら将来結婚式の撮影とかできるな…… この段階で知れてよかった。 「怖がらせてごめんなさい あなたが、無事で良かったです 私はー……その、とりあえず現在は…… 太君と交際させていただいてます 木林柊と申します えー挨拶……で面白い、ことは言えない、のでこれで撮影終わりでいいよ太君……!」 「…………」 星羅にも伝わっただろう、しっかり対話ができている これは作られた映像ではないということ いま、たしかに眼の前ここにいる女の子と 話しているということ 「…………いや、でも……急に幽霊…… いるのにも驚くし付き合ってるていわれると……ちょっと動揺して ごめん……ワタシ帰るね 太も、もう警備の人困ってるから 帰ってね」 ??と混乱したままの星羅 そりゃそうだろうな パタン……としずかに戸がしまる。 挨拶が緊張したらしく柊さんは浮きながらくるくるまわっていた。 「でも……あの反応 私やっぱり歓迎されてないですよね」 「……まあ僕は、挨拶し合う必要すら感じてなかったけど……色々言われるの嫌だし」 「……でも、普通は大切な人に普通に紹介できる彼女のほうがいいですよ ……ねぇ、私思うんです 星羅ちゃんは太君のこと好きなんじゃないでしょうか」 「……え?それはないよ 一度聞いたことあるけど 全然タイプじゃないから安心して 高身長高収入高圧的の三高じゃないと付き合えないって言われたことあるし」 「そんな三高いやです…… でも、照れ隠しとか、その時の周囲の状況とか次第で返答は本音じゃなくなりますよ 好きなの?て聞かれて はい!てこたえられる子は少ないと思います ……真面目に話し合いましたか? 私は、もし星羅ちゃんがあなたのことを好きなのなら 太くんは……星羅ちゃんと付き合うべきだと思います」 ガン、と殴られたような気持ちになる 「っなんで、なんでそんなこと言うんだよ! そうだったとして、君は僕を他の人に譲れるの?そのくらいの想いしかないの?!」 僕が叫ぶとー…… 柊さんは 「ひー、ごめんなさい許して」 「え、いや、その、こっちこそ怒鳴ってごめん」 「「……」」 「なんか僕たち……性格的に喧嘩できないね」 「……はい」 けど、喧嘩には至らずとも 気まずいまま別れて 帰路につく。 寝る前、星羅からは長文メッセージが届いていた。 『まあ、幽霊がいて、太が幽霊と付き合ってるていうのはわかったことにしておくけど それをふまえて言うけど なんか夜の教室でキラキラした雰囲気で 幽霊と自分の秘密な関係みたいなのに浸ってるだけじゃない? 幽霊じゃ、いつ消えるか分からないし 悪霊になるかもしれないし 前例がないから大変さがわからないし まともに触れ合うこともできないよね 病院とかでなにかあったとき身元保証人にもなれないし 傍から見たらただ生涯独身にみえるどころか 宙に話しかける変な人に見えるかも それが悪いとは言わないけど 太はどこまで将来考えてるの? 今だけ幸せだったらいいっていうなら そんなのはすぐ終わってしまう幻だから 学生だからそこまで考えなくていいのかもしれない でも、なにも考えなくていい歳でもないんだよ あなたのそばにいる、心配してくれる、未来がある 現実の人を見てほしい』 既読をつけるのをためらうほど、まあ勝手についてしまうのだが 痛いとこを突いてくる 何も考えてないわけじゃなかった けど、わかってるよ!て怒鳴り返すより 本気には本気で返すべきだ きちんと意見をまとめよう 星羅に、まともに向き合おう いつも僕のそばにいてくれて いつも僕のためになってくれた君へ 『太、朝ごはん作っといたから』 『ちゃんと食べなよーそんなだから背が伸びないんだよ』 『えへへ、今日告られちゃった ねぇ、どう思う?ワタシ中学の頃に比べたら可愛くなったもんね、可愛いでしょ、可愛いっていって』 『……本当に心配なの』 『いい加減起きなよ、ふふ、変な寝癖』 ……星羅。 「ありがとう、感謝してる ……好きだよ 大好きだよ」 でも、うん そうだよな そうじゃないんだ。 君への気持ちは。
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