エピソード6

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エピソード6

動画を何度も再生する やっぱりうつってるよね 色が白くて、小柄で優しそうで お人形さんみたいに可愛い。 ワタシとはまったく違う方向性の魅力にため息が出る やっぱりこういうほうが好きだったんだ 太。 公園のベンチ、太が来るのを待つ。 ズケズケ言ったし、自分たちのことは放っておいてくれて返されるのかも 「……もう来てたんだ」 「……うん」 「……喫茶店とかのほうがいい?なんか今日風強いし」 確かに強かった。木は大きく揺れ、砂場は砂が舞い公園では誰も遊んでいない 「まあ、話すぐ終わるだろうしいいよ」 「……そうか」 じゃあせめてこれ、と太から缶のミルクコーヒーをもらう。 二人で寒い寒い言いながらよく買って帰った 思い出の味。 思い出ならいくらでもある でもきっとこれからは彼女と太の思い出が いくらでも積み重ねられていくんだろう 新たに 届かないほど。 「…………結論から先にいうとさ どんなに大変でも、柊さんと過ごしていきたいとおもう 確かに前途多難ではあるんだ いつ消えてしまうかわからない 終わってしまうかわからない でもそれはきっと、生身の人と付き合ってても同じことだ 当たり前のようにずっとそこには居てくれない…… 世間体的には 彼女と話すときは二人きりのときだけにしようと思う  変人と思われたらまともに稼ぐのも難しくなってくるしね ……今できることとできないことをノートにまとめてるんだ そしたら案外最低限したいことは出来るんだなとおもって 学校からも出れるんだよ」 「えっ、そうなの?学校の地縛霊なのかと思った……学校以外で会えるならなんで学校以外で会わないの?」 「最近になって別の場所もいけるって知ったからね それに、彼女の居れる範囲は、彼女が生前行きたいと願ったところだけなんだ でも、一番強く願ってたのは学校だから 基本魂は学校に引っ張られるみたい、だから彼女が目をさました時にあらわれるのは、長時間滞在できるのは、きまって学校なんだ」 「……そう、なんだ」 「生涯独身になるのも覚悟してる まあこれに関しては普通に独身の人も多くいるし 看取りサービスとか頼めばいいだけだからそこまで心配してないんだけど ……色々な未来をシュミレーションしたよ 一番理想で目指してるのは 老人になるまで添い遂げて、僕がぶっ倒れる前に彼女を完全に成仏させる 成仏させてから僕も逝く 残されて永遠と彷徨う彼女を思うと、耐えられないからね、責任をとってちゃんと見送ってあげたい でもそれは今じゃないんだ 彼女は生きてる間ずっと病に伏せてて家と病院の往復、まともに旅行も遊びも通学もできず友人も恋人もいなくて 思い出といえる思い出がまったくなかった じゃあ今から思い出をつくってから 人が寿命を終えて死ぬように、時間をかけて成仏すればいい そう思っちゃうんだよ 悪霊化でもするというなら、それも全部僕が受け止める でも現実問題そこまでいけるの?てツッコミもまああると思う 綺麗事ばかりいうな、人の気持ちは変わるぞって 今はそんなことありえないと思ってるけど  見えなくなってしまったり、やっぱりここに住みたいとか子供欲しいとか突然願望が湧いたり 今後の人間関係にすべてこじれて 普通に別れたくなった時があるかもしれないよね ……そしたら僕は彼女が希望するなら成仏させてから去るし、成仏したくないならそのまま遠くに引っ越す とにかく、見えないのをいいことに 彼女の眼の前で他の子とくっつく姿を永遠と見せることだけは絶対にしたくない  まともに話し合って、互いを尊重した形で別れるつもりだ」 「……そっか、そこまで考えてるんだ」 「……いままでなんとなーく行ける大学いって 興味ない会社入ってただただ稼げればいいなと思ってた、でも今は違うんだ えっと言うの恥ずかしいんだけど 教師になろうかなって」 「え?!」 おもわず、缶を落としそうになる 学校をめちゃくちゃ嫌っていた太の口から出た言葉とは思えなかった。 「とりあえず高校教諭免許必要なんだよね そういう授業ある大学いって単位とらないと 本腰いれて勉強しないとなておもう 勉強苦手な方じゃなくてよかったよ そして教師になれたとしても今の高校に採用されないかもしれないんだけど 卒業生のコネを若干期待してるというか…… いや、なれなかったらなれなかったで それでいいんだ 彼女が好きな学校に関して、学んで 近づいてみたいんだ、それはきっと無意味なことではないから」 「…………わかった、あーあ、なんか悔しいなあ ワタシもずっと頑張ってきたのに ぽっと出ていうと悪いけどさ 恋すると変わるんだなあって……」 「……けど、いじめられてた僕を廃らせずに維持させてくれたのは星羅だよ だから恋したりする余裕があったんだとおもう」 「なんかそう言われると悔しいなあ……」 「……今更だけど星羅ってなんで……そこで悔しいの?僕のこと好きなの?結構前にはっきり好きじゃないて言われたような……」 「……さーどっちだろうね 言ってあげない。 ……仮にさ、いまの子と会う前にさ ワタシが太に告白してたら……太はどうした?」 「……それ、に今更答えても誰も幸せにならないような……」 「いいの、言って」 「…………柊さんには一目惚れだったんだ でもそれだけじゃなくて 柊さんから好きって言われたとき はじめて言われたそれに心の壁が取り払われたような気がして 自分がだれかからもらうその言葉をずっと待っていたような気がして…… だから、うん、星羅からでも先に告白されてたらノってたのかもしれない でも好きって言われたから好きになるなんてロマンの欠片もないし がっかりする男でしょ? やっぱ知らないほうがよかったとおもうよこの情報」 ……そうか 自分があの子に勝てなかった理由がやっとわかった 外見とか、幽霊ていうレアさとかそういうんじゃなくて 一緒にいる時間は関係なく 勇気を持って告白したかしなかったか それだけの、しかし圧倒的な違いだったんだ。 ガタタ……私たちの横、ゴミ箱が風で倒れる 「危ないな……そろそろ解散しようか」 「……太はこのあと用事あるの?」 「……うん、ダージリンローズ、ていう喫茶店が駅前にあってさ、柊さんが来れる可能性がある所だから チャレンジしてみようとおもって」 「あーー……あの子好きそうだよね ああいうメルヘンな喫茶店 ワタシ喫茶店前までついてこうかなー」 「えっ」 「いいでしょ、嫌がらせ。 自分だけ彼女できて幸せになろうと思うなよーウリウリ」 「……なんだよ星羅だって彼氏いるだろ」 缶を立て直したゴミ箱に捨て、二人で歩く 若干距離をおいて歩いてる自分に気づき 少し笑った さすがに将来まで考えてる彼女もちの男に そんなべたべたできないって常識が 自分の中に渦巻く いままで手と手が触れるような距離感で歩いてたんだなあ……。 嫌がらせってのも、今回で最後 どうしようもないよ だってさ もう好きになってもらうのは無理なんだから じゃあせめて嫌われないくらいにはならないとね 喫茶店の赤い屋根はすぐ見えてきた。 とりあえずはやく室内に入りたい たまにまっすぐ歩くのですらぐらつく風だ 「星羅も喫茶店前までじゃなくて一旦喫茶店入りなよ この風じゃ帰るのも危ない」 「うん、そうねーすぐ止むとはおもうけど……」 その時ベランダの柵に植木鉢をかけてるアパートが視界に入った。 ガタガタ……ガタガタと 嫌だな、落ちてきたらどうすんのよ とおもって睨んでいると それが一つ、宙に舞った 「え……」 すべてが一瞬でワタシは自分の頭を手でおさえながら、太の方を見て叫ぶ どうしよう間に合わない 植木鉢の割れる音が響く 「…………太、だいじょう……」 割れたのは、ワタシたちから数メートル離れた、誰もいない場所で、だった あきらか太の頭部めがけて落ちてきていたのに 軌道がそれたのだ。 「柊さ……ん」 尻もちをついていた太が、そうつぶやき 潤んだ目になる ああ、そうか 彼女が助けてくれたんだ 周囲の野次馬は何だなんだと ああ、植木鉢が落ちてきたのか、あたらなくてよかったねと言っている そうじゃない 偶然じゃない 彼女が必死にかばったのだ 太は今、一人で倒れてるんじゃない 彼女と抱きしめあっているんだ 周りにはわからない けれど、見えないからって無いわけじゃない ワタシの彼を好きな気持ちが、言わなかったからって無かったわけじゃないのと、同じように。 夜の学校。ワタシは3Bの教室に立ち尽くす 「ねぇ、柊さんいる? えーと、とりあえず今から動画撮影して喋るから居たら返答してね」 ピロン、と動画をとりはじめる 「あのね、太のことなんだけど……貴女って多分嫉妬する気が失せるくらい良い子だから 自分が太の未来を邪魔するくらいなら消えた方がいい、他の人に譲った方がいいて思ってるよね でも、そうじゃないの 太はあなたのことが大好きで、今だけとかじゃない本気であなたと添い遂げる未来を想定してる だから、そこまで惚れさせたからには貴女にも責任をとって一緒に居てもらいたい ワタシもね、太のこと好きだったよ 幼馴染で、ずっと昔からね だから太と結ばれるのはワタシだと思ってたの でも、違った ……悲しいよ? けれどそれは貴女のせいじゃない きっと、貴女がいてもいなくても同じことだった 相手から告白してくれるのまってて、自分からは好きっていう勇気がなかったから その一歩踏み出さない限り、いつかできる彼女に 貴女じゃなくても太のことは取っていかれてしまってたとおもう えーと、だからとくに気に病まないでほしいの ワタシのことは ……ワタシ、見直したの 幽霊へ恋なんて馬鹿げてるし、将来どうするの、て過去に囚われるだけで良くない 死んだものは成仏か転生するものでしょって思ってた でも、あなたはたしかに太を護ったね あの植木鉢あたってたら大怪我か、最悪死んでた 念力?どんな力で弾き飛ばしたのかはわからないけど あなたは太の今と未来を、あの瞬間まもったんだよ 生きてるワタシにもできないことをした だから、あなたが護った未来に あなたも行ってほしい 太の隣で 天だって多分向こうの人口密度激しくて 一人くらい現世に魂取りこぼしてても気づかないよ だから、幸せになってね 今のあなたのまま」 これ独り言だったら恥ずかしいやつ、と思いながら動画を撮り終え 見ると、眼の前、真っ白な女の子が 柊さんが居た。 再生する。 「えーと、あのっ星羅ちゃん、私、太君は貴女と居たほうが幸せだってずっと思ってました…… でも、そこまで言っていただけたからには ……その、責任もって太君のこと幸せにします」 きっと、ごめんなさいとか いいとこ取りしちゃったとかありがとうとか 全部何を言っても嫌味ぽくなると思ったのだろうか、色々話そうとして、結局短くそれだけだった うん、それでいい 多分謝られたらイラッとしてたとおもう 幸せにするってその一言が聞けたら 満足だ。 ワタシには彼女の周りの空気は冷気に感じるけど ……今はなぜか悪くない なんかスッキリしてきた。 「幽霊に恋するような変人 ワタシの力じゃ幸せにできないもん ワタシは絶対生身の人間と付き合うからね!」 だから、さようなら ずっとずっと好きだった ワタシの恋心へ
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