エピローグ

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エピローグ

柊さんの墓参りに、僕は行ったことがない なにか違うと思うのだ 魂がないところに行っても意味がないというのもそうだし 僕が出会ったのは幽霊の彼女だから その前の彼女ではないんだ もちろん過去も含めて丸ごと愛しぬくけれど 彼女が死んだという事実に向かい合うのは、まだまだ先でいい。 prrrr けたたましく、電話が鳴り響く 母の表示にため息が出る 「なに?」 『ちょっと聞いた?星羅ちゃんもうすぐ結婚するかもしれないんだって!! あんた馬鹿なことしたわよね 捕まえておけばよかったのに……そんなんでどうするのよ』 「まあ星羅モテるから、そろそろだろうなと思ってたよ」 『あんたはどうすんのよ』 「……この前写真見せたじゃん付き合ってる子」 『え、ええ…… でも……病弱で挨拶にも来れないんでしょう? そんなのって……将来苦労するし』 「僕は僕の好きになった人否定するような人に心配なんてされたくないよ、切るね」 『……わかったわよ、もう好きにしなさい』 「……うん、分かればいいよ」 今度実家に帰ってやらなくもない と上から目線で通話を終える。てか仕事中にそんなことで電話ってもう、やってられないな 長い廊下を歩く。 「田中先生さようならー」 「うん、さようなら」 学校は不思議な所だ 社会に出たらサークルや職場など、差はあれど大体同じレベルの人と集まるのが普通だが、学校でもなければ縁がないような人が隣りの席に居たりする あの芸能人と母校同じ とか、そんな接点で自慢したりする バラバラなものの寄せ集め だから傷つきやすくて 壊れやすくて でも、一生の絆が出来たりもする 僕はなんとか彼女の愛するこの学校で教師になれた そしてもちろん僕の愛する彼女も、この学校に 「ふふ、校庭飛んでるし……」 今日もふわふわと自由そうで、なによりだ。 くるくるとペンをまわし、僕は生徒の回答を採点していく 国語科の教師になったのだが 他のにしておけばよかったってくらい採点に時間がかかる。 なんなら解答よりも生徒の考えのほうが個人的に好きだから丸したいんだけど 「太君、太君、今いい?」 ふよー、といつのまにか近くにいた柊さん 普段はなかなか仕事中 とくに採点中には話しかけてこない柊さんが申し訳無さそうに話しかけてきた。 これはなにかあったな、と僕はペンを置く 「どうしたの?」 「こ……校舎裏で、あの一番背がちっちゃい子いるでしょう……なんか絡まれてるらしくって いじめかもしれないの」 「佐竹君か」 クラスの子の特徴と名前は、全部覚えている。 正義感が強い子で、この前学生用トイレにタバコが捨ててあったて報告しに来てくれたな もしかしたらそれが原因で、タバコを捨てた人に恨まれたのかもしれない 「でも、気の所為かもしれないし 忙しかったら私だけでなんとかしてみせ……」 「いや、いい、行こう 採点はあとからでもできるし それよりもそっちのほうが大事だよ ……僕たちで護るんでしょう?この学校」 「……はい!」 今日も この学校で、変わらぬ君と、変わらぬ心で 生きていくんだ。 それが幽霊の君を愛するということだから。 end
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