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12.塩谷、意地になる!
相変わらず藤野は俺の授業を最前列で聞いている。隣には畑中がいて。たまに藤野と目があっても俺はすぐ逸らすようになった。廊下ですれ違って手を振ってきても、授業が終わり話しかけてきても俺はそっけなく突き放した。大体、准教授と特定の生徒が仲良くし過ぎるのは良くない。授業に関係ない話ならしないに限るんだ。
それでも藤野はまだチラチラとこちらを見ている。授業中も、廊下でも。何か言いたそうに見ている。
俺がどんなに目を逸らしても。そのたびに胸が痛むようになってきた。
そんな日々が数週間、続いた。
『塩谷先生』
自分の名前を呼ぶ藤野の声を聞かなくなって、正直寂しくなったのは認めずにはいられない。それでも俺は、藤野と必要以上にかかわるのをやめていた。
しばらくするとチラホラ聞こえだした噂話。
「最近、藤野くんと塩谷先生のツーショット見ないね」
「もしかして破局なのかしら」
「いまや『畑中×藤野派』が増えてるしねぇ」
「私は塩谷先生との方がお似合いだと思うけど」
思わず苦笑いしてしまった。まるで俺が振られたみたいじゃないか。
「ねぇねぇ、しおっぺ大丈夫なの」
弁当を準備しそこねて学食でカレーライスを食べていたら、土井と佐々木が勝手に隣に座ってきた。
「何が?もしかしてまた藤野の話じゃないだろうな」
「それよ」
しつこいなあ、と俺は呟きながら水を飲む。
「あんなあ。ネタにするのはいいけど、現実と妄想を混在しないでくれないか」
「でも、藤野くんから直接聞いたのよ。これ、私達の秘密だから他の子には言ってないけど…。結構前から塩谷先生が気に入ってきたらしいの。理由までは教えてくれなかったけど。それで、最近仲良くなれて一緒にいたら楽しいって言ってたよ」
少し声のトーンを落として土井が藤野から聞いた話を教えてくれた。
気に入っていたって?結構前からって?
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