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14.教室で二人きり!
授業を終えて、教室を出て次の部屋に向かう。外はまだまだ大雨だ。
廊下を歩いていると、通りがかった音楽科の音楽準備室から声が聞こえた。
「航、タオル持ってるから拭いたげるよ」
「こんなにびしょ濡れになるなんてついてないなあ」
その声を聞いて俺は思わず準備室を覗き込む。そこには藤野と畑中の二人だけがいた。タオルをもった畑中は藤野の髪の毛を丁寧に拭いている。
「しっかり乾かさないと。風邪引いてしまうよ」
「んー」
ゴシゴシと畑中が藤野の頭を拭いている。藤野はメガネを外してなすがまま。メガネをはずした藤野を久しぶりに見た。授業中や普段は外さないメガネ。彼がメガネを取るときは、キスをするときだけだったな。
二人は向かい合ったままの姿勢。二十センチの身長差はキスするのにちょうどいい設定だと、漫画科のテキストに書いてあったっけ…
心臓がキュッと締め付けられる。
「タオル貸して。交代な」
藤野が畑中を見上げるように見つめながら、畑中からタオルを受け取り頭を拭いていると、その手を畑中が握る。
「航」
二人きりの教室で向かい合って…もしかしたら俺は見たくないシーンを見てしまうのだろうか。
あんなに自分から藤野を拒絶しておきながら
こんなに自分から藤野を離したくないなんて
突発的に俺は音楽準備室のドアを開けた。
「塩谷先生」
驚いた顔の藤野と、睨みつけてくる畑中。二人の顔を見た瞬間しまった、と一瞬考えたがもう後には引けない。
「お、お前が好きなのは俺だろ!」
BL小説や漫画ならこんなとき、かっこいいセリフを言うのに。咄嗟に出た言葉は何とも情けない。年下の生徒に、童貞准教授がこんなベタなことをいうなんて。
でも俺の精一杯の気持ちなんだ。
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