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「濃密な、男女の、関係って……!?」
雅史はそのひとことに驚いて卒倒しそうになった。けれど必死に冷静さを保ちながら言い返す。
「それって、成仏じゃなくて昇天の間違いじゃないんですか、葉月さん」
「うふふ、面白いこと言うのね。雅史君、あの頃よりずっと大人になったって感じ」
「エッチな意味で大人になったって言われても、はいそうですなんて答えられないですってば」
「あら、何動揺してるのかしら。社会人までしているのに、そんな経験がないなんて言わせないわよ。外見だってなかなか素敵なんだし」
少女は雅史の顔と服装の着こなしを見、うんうんとうなずく。
「いや、その、あの頃の葉月さんのイメージにそぐわない発言だったんで、つい……」
「あの頃は君、未成年で、私の元生徒よ? 大人の情事なんて語れっこないじゃない。でも、今は私と同い年まで成長したんだし、遠慮なくなんでも話したいわ」
「だからって、葉月さんから、そんなこと言われたら、冷静でいられるわけないじゃないですか」
外見はずっと大人であるはずの雅史の方が、少女の言動に振り回されっぱなしだ。
「でも、私がそういうことを知っているのは承知してるでしょ。だって子供がいたくらいなんだから」
それから両手の親指を立てて、くいっと自分自身を指してみせた。雅史は瞳を二倍にして驚いた。
「まさか、葉月さんって……」
そう、目の前に佇む少女の本当の名は、「春日美郷」。雅史が恋した女性教師の娘、である。
雅史は葉月に娘がいたことは知っていた。
その娘が母と瓜二つで、葉月の意識を宿しているなんて想像だにしなかった。少女はその推測を唇の湾曲で肯定した。
「ところで雅史君、私と初めて言葉を交わした時のこと、覚えているかな? 桜が満開だったよね。こんなふうに」
咲き誇る桜花を見上げた少女の頬に木漏れ日が降り注ぐ。
「もっ、もちろんです!」
雅史は忘れるはずがない。高校二年の春、雅史の心を鮮やかな桜色に染め上げた瞬間を。
その鮮烈な出会いは、今でも雅史の心に焼き付いて色あせることはなかった。
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