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☆
「かんぱ~い!」
ジョッキがぶつかり合う音が響く。
喉の奥に流れていく、苦い旨み。
冷たくて、乾いた心と身体を潤す大人の味。
「くぅ~!いいねぇ!仕事のあとの一杯!」
ネクタイを緩めた襟元に人差し指を引っかけながら言う。
宮本昇太は、顔をくしゃくしゃにして笑っている。
「身体に沁みるわ~!あ~幸せ」
昇太の隣で嬉しそうに笑うのは、坂本忠士。
こちらは既にネクタイは外され襟元が全開になっている。
そんな二人を冷静に見ながら、樹もビールをぐいっと喉に流し込んだ。
樹は今日は仕事が休みで、私服での参加である。
カジュアルな白いTシャツに、腕を少しまくった黒いジャケット。
細身でスッキリとした、樹のお気に入りのコーデのひとつだった。
「お前ら相変わらずだな」
にかっと笑う樹に、昇太と忠士は一斉にそちらを見る。
「何だよ、樹は相変わらずじゃないのかよ」
「半年ぶりの飲み会だし、そんな特に状況も変わらんだろ」
なーっと二人は顔を見合わせて笑っている。
「あ、でもオレはこないだ行った合コンで、彼女が」
「えっ!?ついに昇太ちゃん!」
昇太がガハハと笑って言った言葉に忠士がすぐさま反応したが、その瞬間昇太はがっくりとうなだれて言った。
「できませんでした……」
一瞬しーんと静まりかえったあと、忠士は昇太の背中をバシバシ叩いた。
「それじゃあ特に何にも変わらなかったんじゃんか!落ち込むな!乾杯しようぜ!」
うなだれていたのも束の間、昇太は顔を上げて忠士とジョッキをぶつけ合い、そしてまたひと口ビールを飲んだ。
枝豆が皿から減っていく。
料理が運ばれてきて、サラダ、お刺身などに手が付けられていく。
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