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キリリと締まった空気が、身体の内部に入っては出ていって、私と馴染んでいく。一面白銀のここは、ホネスターナ王国。北国の空気は、下手な魔法の寒さなんかよりも桁違いに堪える。生き物らしい姿もなかなか見当たらない程に寒さの厳しい地方。極北の街を目指してここまで来たのは、魔法学院ペスナに入学するためだ。
噂に聞くそこは、まるで城のように広く、生徒たちもお金持ちが多いという。しかし、学院には、入学に欠かせないある条件が一つ。それは魔法が使えること。逆に言えば、魔法が使える者は皆入らなければならない。つい数年前からの決まりで、私もその対象の一人。
つまり、魔法が使えてしまうせいで遠路遥々、南国からこんなところまで来たわけだ。そうは言っても、私の魔法はどうやら少し特殊なようで、そのせいか周囲から怖がられて友達と言える人もない。学院でも、おそらくそれは変わらない。
「よし、見えた」
ようやく見えてきた灰の街並みは、薄暗い夕暮れの中心で煌々と眩しかった。慣れない雪に足を取られながら歩いたせいで、息が少し上がっている。極北の街にわざわざ用のある人は限られていて、交通の便も悪い。晴れていたおかげで夕暮れでも視界はまだ明るいのが幸いした。歩き出した背後でキタキツネの子が一匹通り過ぎた気がした。
小人数のがさつな検問を過ぎてすぐ、街ゆく人々を眺める。除雪された石レンガの道は湿っていて、転びそうな子供を母親が叱っている。どこを見てもくすんだ赤茶髪が多くて、待ち人を探すのにも苦労していると、後ろから思い切り抱きつかれた。
「ルミネ!久しぶり。ここ寒いでしょ?あたしもここ来た時はもう凍えたよお」
私には友達はいないが、親友はいる。この燃える様に赤い髪の少女、マナ=ドルイトンだ。鼻を赤くして、吐く息が白い。ずいぶん待たせてしまったようだ。
「そうね。一年中こんなだと凍え死にそうね」
「うん。でも慣れるとそこまででもないんだよ?さっ行こ!」
冷ややかな私の返しも意に介さず、あっけらかんと清々しい返し。今日から彼女の家で厄介になりながらの学院生活が始まる。
街明りに照らされ、ここまでの道中の話や南での土産話に花を咲かせていると、マナの屋敷に着いた。
「はい、どーぞ!」
とマナがドアを開けてくれた。部屋に入ってみると、さすがお金持ちと言わんばかりの内装。どこもかしこも職人の腕が振るわれていて、細かい装飾品が隅々に収まっている。
「貴族は凄いわね」
「そう?そんなでもないよ。あ、荷物はそこの誰かが持っていってくれるから置いといていいよ。さ、こっち」
とマナ。
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