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後ろで執事らしい初老の男が、怒りをぶちまけている。細い腕を振りながら、護衛はまだしも、付き人も連れて行かずに出かけたことを叱っている様だった。しかし、これも全く耳に入れないマナ。私は困惑しつつも、マナに頷いて言われた通り荷物を置いておいた。
通されたリビングには豪華なシャンデリアの下に、宝石の装飾付きクッションが積まれたソファ。その間には、足の短いシックなテーブルがあった。委縮しつつも、マナに倣ってソファにつくと、暗い橙色の髪をした使用人がお茶とクッキーを用意してくれた。
「どうぞ。ルミネさん、マナ様」
突然名前を呼ばれて、黙って顔を上げた。淹れてもらった紅茶が湯気を立て続ける。驚きが顔に出ていたようで、使用人がクスっと笑う。
「私ですよ。フロス=スタネイトです。覚えてらっしゃいますか?」
名前を聞いてやっと思い出す。そうだ、このメイドは私が幼い頃によく一緒に遊んでくれたフロ姉さんだ。髪がすっかり伸びて後ろで一つに束ねているせいで、以前とは印象が違っていた。大人っぽく落ち着いた雰囲気からは、以前のやんちゃな姿は見当たらない。
「フロ姉さん。メイドになってたの?」
「そうですよ。元々私はスタネイト家。マナ様の家に従う家系ですから」
「そうだったのね。知らなかったわ」
「ええ。お伝えしていなかったですね」
とニコッと笑うフロ姉さん。知っていれば驚くこともなかったわよねと、つい心の中で少し毒づいてしまう。険しい顔を見かねてフロ姉さんが口火を切った。
「ところで、何故ルミネさんがここへ?」
「ああ、実は私が”魔法が使えること“が知られてしまったのよ」
「うん。だから私の通ってる魔法学院に行かなきゃいけなくなっちゃったの」
「それでここへ…」
事情を聴いて、フロ姉さんが納得したように頷いた。しばらく紅茶とお菓子を堪能していると、予告なくマナが爆弾を投下。
「そんなわけだから、ルミネにはペスナ学院の寮に入ってもらうよ!準備は整ってるから明日からさっそく寮に入ってね!」
間髪入れず、突っ込んだ。
「ちょっと待って。私寮に入るなんて聞いてないわよ」
「うん、その方が面白いし!じゃ要件は言ったし、夜ももう遅いから寝よう」
じゃ!と言いながら、リビングを後にするマナ。ご機嫌そうに去っていく彼女を為す術もなくただ眺めた。口から勝手に大きなため息が出る。
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