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「ドンッ」
静かな体育館に響く、大きな音。
君は思い切り床を蹴ると、ボールをゴールに叩き込んだ。その綺麗な姿は、まるで白鳥の様だ。
あの日君は、空を飛んでいた。
大好きなバスケットボールがしたい。そんな願いはきっと叶わない。体が弱い僕には、速く走る事だって、高く跳ぶ事だって出来ない。
でも、君の姿を見てから、僕はいつも夢を見る。シューズが床に擦れる音、ボールの皮の匂い、そして、豪快なダンクシュート。一瞬の沈黙の後、湧き上がる歓声。
夢の中の僕は、ヒーローだった。
目が覚めると、僕は体育館にいた。夢か現実かも分からない不思議な空間だった。少し汚れた床には、僕とボールの影だけが映し出された。君のプレーを思い出して、ドリブルをついてみる。鏡に映ったその姿は、あまりにも不恰好だ。今度はシュートを打ってみた。手から放たれたボールは、リングを掠りもせず床を叩いた。静かな体育館に響く音。
転がるボールをゆっくりと拾い上げた。
「僕は何してるんだろう」
君みたいになれると思ってた。高く跳べると思ってた。僕には才能がなかった。目頭が熱い。ボロボロの床に垂れた水滴は、汗か涙かも分からない。
「ドンッ」
ふと、あの日の音を思い出す。
この音は、豪快で、繊細で、そしてかっこいい。
僕は上を向く。
静寂の中、ボールの音だけが体育館に響いている。深く深呼吸をし、あの日の君の姿を思い出す。
「よし」
僕は右足で思いっきり床を蹴った。
「ドンッ」
見上げると、抜けるような青空だ。
たぶん、僕は今、空を飛んでいる。
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