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「おじゃまします」
せっかく仮想現実で楽しんでいるのに、現実の常識を持ち込んでつい口走ってしまった。
これに関して竜星は無意味だと分かっていても、無人の家に土足で上がることに後ろめたさを感じてしまう。
室内は清潔が保たれ、センスの良いインテリアや壁紙なんかが貼られている。
茶の間ではテレビやソファもあるし妙に生活感があるだけに、このゲームでごくあたりまえの武器探しすら、泥棒みたいなことをしていると恥ずかしさと気まずさで「ああ」だとか「うう」だの唸りながらのそのそと家屋内を順繰りに回った。
風呂場のドアを開けたとき、バスタブの中に銃があった。
比較的小型だが拳銃よりもゴツイ。ピストルの全体の延長と銃身を伸ばしてロングマガジンを取り付けたマシンピストルSMGというやつだ。
ひとまず竜星はそれを手に取って装備した。確かな重量感を感じて子供のころに親から買ってもらったエアソフトガンよりも重く感じる。
バスタブの中にはこのマシンピストルSMGやピストル用の先が丸く短い拳銃弾があったのでそれも拾った。
外の方からパンパンパンパンと乾いた音がした。銃声だ。すでに誰かがバトルを始めているのだろう。
音は小さいが竜星は緊張で身体がこわばるのを感じた。
左腕の情報端末に目を通すと百人いた数字は九十七人になっている。既に三人はリタイアしたということか。
すぐに九十七人から九十六になり、ニュース速報みたいに画面の上に誰誰が誰誰をショットガンで倒したと表示された。
倒された者の名前もきっちり表示される。いま流れて来た速報では「“ジョン・ドゥ”が“ゆうと”をピストルで倒した」と表示された。
ジョン・ドゥ、あのカボチャ頭はさっそくドンパチやってるらしい。
本当の戦場でもきっとこんなふうに遠くから聴こえる銃声に驚いたりするのだろうか。その場にいるのが怖くなって竜星は足早に移動を始めた。
まだ二階は調べていないし武器があったかもしれないが、構わず竜星は家を出た。
とりあえず中央を目指そうと歩き出したそのとき、真後ろで先ほどとは比べ物にならない大きな銃声が響き、真横で橙色の光線みたいなものがハッキリと目に見えた。
振り向いて、住宅の横の納屋からライフルを構えた誰かがこちらに照準を向けているのが分かった。
「うわ! 敵だ!」
納屋の陰に潜む敵は真面目くさった顔でスコープを覗いてブルパップライフルを撃つが、そのどれもが竜星には当たらない。
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