生きるという事。

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生きるという事。

気が付いたら子供の身体が宙を舞っていた。 咄嗟の事だったので何が何だかわからなかったのだが、恐らくは突発的に起こった事故なのだと思う。 周りで誰かが悲鳴を上げ、冷静な者がスマホを握り「119?いや110番か?!」と自問しながらどちらかに電話をかけようと握りしめている。 この中で一番冷静だったのはやはり死亡予報士で、ポケットからスマホを出しすぐさまこう言った 「被疑者死亡の人身事故が発生した。今すぐ救急車とパトカーの要請を頼む。場所は―ー…」 運転手は死亡(病死:心筋梗塞)しており撥ねられたのは小学生くらいの男の子で意識がない状態だった。 後日お見舞いに来た予報士が見たのは、泣き崩れる両親と思われる夫婦の姿だった。 話しかけながら何度も手を握り、まだ小学生の小さな手から温かさを感じてホッとするしか彼らには出来なかった。 この夫婦は毎日お見舞いに来ては、意識のないわが子の痛々しい姿を見て泣いているそうで、流石に不憫に思った死亡予報士はこう告げる。 「まだ死なない、もうすぐ目を覚ますんじゃないかな?だから安心なさい。」 だが言っている意味が分からない両親は激昂し死亡予報士に掴みかかる。 「根拠を出せ!」 「無責任な事を言うな!帰ってくれ、もう沢山だ!!」 喚き散らし、今にも2人に殴り掛かろうとした夫婦を医師や看護師が止めに入る。 「信じるも信じないも自由、行くぞ。」 踵を返しこの場から立ち去って行く予報士と恵理。 第1発見者で子供の命が助かったのも通報が早かったからなのに……。 恵理は少しだけモヤモヤとした気持ちを感じながらも黙って予報士の後を追う。 もうここには用がないとばかりに医師の制止を振り切って病院の外へ出ていく予報士と恵理。 「何であの子の目がもうすぐ覚めるなんて分かったんですか?」 「あの子の死因が見えたからね、君の時と一緒だよ」 迷いなくスタスタと歩いて行く予報士に、恵理はついて行くのにやっとで詳しくは聞けなかったがあんな小さい子がこのまま死んでしまわないと分かっただけでも安心出来た。 その数日後、予報士のスマホが急に鳴り出し一通の電話が入ることになる。 「何?」 「あの子助かったそうだよ。あと何故か判らないけど怒られた。」 「どうしてすぐ目が覚めるって分かったんですか?!」 「死亡予報士ってやつは余命と一緒に人の死因が判るんだ。あの子は長生きするって見えていたから尚更だね」 そんな能力が有るのなら心配はない。再度安心した恵理はふと自分の時と同じだと語った予報士の言葉を思い出す。 あの時自殺をしようとビルの上から飛び降りていたら自分は長く植物状態に陥るが命だけは何とか助かったと以前予報士は恵理に告げた。その時の事を何度想像するだけでもゾッとしてしまう。 「そうだったんだ…あの子幸せになれますか?」 「なれるんじゃないかな」 まっすぐ前を向いて歩く予報士の言葉には迷いが一切無い。嘘が無いから・自信があるからそう断言出来るのだ。 こんな人の救い方も有るのかと予報士の背中を見ながら彼に付いていく恵理だった。
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