トンネル

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 北海道の雪深い山村。ここにはかつて1000人ぐらいが暮らしていたらしいが、今では数える程しかない。私鉄がここまで走っていたが、もう今は走っていない。  雪原の中で、4人の少年少女が雪遊びをしている。彼らは近くの小学校の子供たちだ。その小学校の生徒は、この4人しかいない。最盛期には100人以上いたらしいが、今ではこれだけだ。 「雪遊び楽しいね!」 「うん!」  今日は日曜日だ。思いっきり遊ぼう。そして、明日からまた始まる学校に備えよう。みんな楽しそうな表情だ。岸井自然だけど、冬になると毎日のように雪遊びができるのを考えると、ここもいいと思ってくる。  と、雄太(ゆうた)はトンネルを見つけた。そのトンネルは山の前にあり、雪原に埋もれている。一体何のトンネルだろう。かつてここを走っていた鉄道の跡だろうか? 「ここはどこ?」 「さぁ・・・」  横にいた昌平(しょうへい)は首をかしげた。昌平にもわからない。どうしてここにトンネルがあるんだろう。鉄道が通っていたのはここじゃないのに。 「もう誰も使ってないのかな?」 「だろう」  4人はトンネルに入った。その先は暗い。どこに通じているんだろう。もう使っていないトンネルは崩れる危険があるから近づかない方がいいと言われている。でも、行きたい気持ちが強い。  トンネルの中は静かだ。誰もいないようだ。中は素掘りで、土がむき出しだ。 「わっ!」  突然、雄太は驚いた。目の前には、乗り物がある。どうしてこんなのがあるんだろう。 「こ、これは、トロッコ?」  よく見ると、トロッコだ。トロッコはさび付いている。もう何年も使っていないようだ。でも、どうしてトンネルにトロッコが放置されているんだろう。  と、正平は何かを見た。幽霊のようだ。幽霊は鎌のようなもので壁を削っている。一体何をしているんだろう。昌平は首をかしげた。 「幽霊かな?」  雄太もそれに気づいた。どうして突然現れたんだろう。このトンネルは、何に使われていたんだろう。 「きっとそうだろう」 「みんな何してるんだろう。鎌みたいなのでトンネルを叩いて」  雄太も首をかしげた。このトンネルの建設をしていて、建設途中で生き埋めになって死んだ人々の幽霊だろうか? 「わからない」  と、そこに老人がやって来た。たまたま通りがかった地元の老人だ。老人は厳しい目で見ている。危ない場所に入ったからだ。 「こら! ここで何をやってるんだ!」 「ご、ごめんなさい」  それに反応して、4人はトンネルから出てきた。怒られて、4人は下を向いてしまった。 「まぁいい。このトンネルに近づくんじゃないぞ! 崩れたらどうするんだ! もう帰れなくなるぞ!」 「本当にごめんなさい」  4人は老人の乗る軽自動車に乗った。老人は4人の家がどこにあるのか、知っていた。早く家に帰さないと。きっと親が心配しているだろう。 「おじさん、ここって、何があったの?」  雄太と昌平は気になっていた。この洞窟には何があるんだろう。そして、あれは何の幽霊だろうか? 「なんだ。ここには行っちゃいけないって言ったのに。教えてほしいか?」  老人は何かを知っているかのようだ。だが、話すのをためらっているようだ。このトンネルには何か悪い思い出があるようだ。幽霊が出るのも、その理由だろうか? 「うん」  4人はみんな興味津々だ。この村の歴史を知りたい。あのトンネルには何があったんだろう。 「ここにはな、炭鉱があったんだよ。で、目の前の雪原には、そこで働く人の家があったんだよ」  この村はかつて、炭鉱で栄えていて、あのトンネルは炭鉱の入口だったという。トンネルの中にあったトロッコは採れた石炭を運ぶためのもの、そしてあの幽霊は炭鉱で働く人々の幽霊だという。 「そうなんだ」  4人はその話を興味津々に聞いていた。この村にはこんな歴史があったんだ。それに関する事を、もっと知りたいな。 「その資料館が、道の駅にあるんだけど、行ってみるか?」  突然、老人は4人を道の駅に誘った。この村の歴史を、鉱山の事を知ってもらいたいようだ。4人は少し戸惑ったが、ぜひ見たいな。それによって何かを感じ、得るものがあるかもしれない。 「うん。いいけど」  老人と4人はその資料館に行く事にした。ここから車で10分くらいの所にある。辺りは民家があまりなく、どこまでも雪原が続いているかのようだ。  5人は道の駅にやって来た。道の駅は雪の壁に囲まれている。駐車場には何台かの車が停まっている。冬でもそこそこの利用者がいるようだ。  5人は道の駅に入った。道の駅には喫茶店やグッズショップの他に、資料館がある。資料館には、この村にかつてあった炭鉱の写真などの資料がある。  5人は資料館に入った。資料館は素掘りのトンネルのような内部をしている。まるで鉱山のトンネルのようだ。その中には写真や資料があり、少数ではあるが見ている人がいる。そのほとんどは年配で、まるで昔を懐かしんでいるようだ。 「これがそうだよ」  老人は1枚の白黒の写真を見せた。トンネルの写真で、穴を掘っている男たちがいる。昌平はここがどこなのか、わからないようだ。 「ふーん」  と、雄太は何かに気付いた。今さっき入ったトンネルだ。まさかそのトンネルの写真があるとは。 「このトンネル、今さっき入った所だ!」 「うん、そうだよ。今でも残ってるんだ」  老人は笑みを浮かべた。あのトンネルだとわかって嬉しいようだ。 「あの時見たのはこれだったのか」  4人はあの時見た幽霊が何なのか、ようやくわかった。この鉱山で働いていた人の幽霊なんだ。 「そうなんだよ。昔はここももっと多くの人が住んでたんだけど、今はおじいちゃんやおばあちゃんばかりになっちゃったんだよ」  4人が雪遊びをしていた雪原には、多くの炭住が立っていて、とても賑やかだったという。その中には、劇場があり、休日には演劇を見に多くの人がやって来たという。だが、閉山によって劇場も炭住もなくなり、ただの荒野になってしまった。そして、この村は過疎化が進み、今ではこんなに少なくなってしまった。 「そうなんだ」 「こんな過去があったんだ」  と、老人は何かを考えているようだ。優太と昌平はその様子が気になった。一体、何を考えているんだろう。話してほしいな。 「どうしたの?」 「あの頃が懐かしいよ。あの頃に戻りたいよ」  老人は昔を思っているようだ。あの頃に戻りたい。だけど時代は変わりゆく。この村はまるで盛者必衰を表しているようだ。でも、鉱山が今でもあったら、ここは今でも賑やかなのに。時代が移り変わるのはこんなに辛い事なんだろうか?
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