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 街には死の影を気取った灰色が染み入っていた。    切れ目の無い雲が空を這う、いつもと同じ暗い昼下がりだった。    その姿を瓊姿(けいし)と呼ぶにはどこか禍禍しい、妖麗なその女は、生命の枯れ落ちた細い木の下に何をするともなく立っていた。   奇蹟のように透き通る雪白の肌、滑らかなアーチを描いた眉、長い(まつげ)に覆われた、深き水の如き黒茶色の瞳……。濡羽色に輝く長い髪は艶めかしく流れている。   男は、木橋を挟んだ向こう側で美貌を(さら)す女を、見つめていた。   聞こえて来る音は足下を流れる小川のせせらぎのみ。その仮初めの静寂に、彼は一時(いっとき)唸り響く苦の音色を忘れかけた。 「ガシャンガシャン!」  不意に、酷くアンバランスな轟音が響き渡った。  男は我に返って街道に目を向ける。    その瞳の端で、木の下の女が身を翻す姿を捉えた。
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