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男の足は僅かに震えたが、女を追う一歩には至らなかった。深く息をつき、男は騒音のする方向を振り返った。
細細とした奇妙な金属に覆われた馬車が豪快に街道を走って来る。特殊合金で出来た、栄耀栄華の時代の遺品馬車であった。
―――“収集車”か……。
派手な走行音を立てて過ぎ行く馬車の姿を、男は暗い眼差しで見送った。
御者は巨漢の男が一人、馬車内部の窓には檻が取り付けてあった。
男は馬車の過ぎ去った方へゆっくりと歩き出す。
「ギァ――――――!!」
歩みを向ける方向から、奇妙な悲鳴が聞こえて来た。
次いで野蛮な怒鳴り声がする。
「……らっ、さっさと乗りやがれ!!」
見ると、先程の大男が御者台から街路に降り立ち、その太い腕で蒼白い顔をした長い白髪の女の細い腕を摑んでいた。大男はそのまま女を馬車に引き上げ、乱暴に中へ押し入れる。
「ギィ―――――ッッ……」
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