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オウラはジークの右腕を捕らえていた指の力を緩めた。ジークは腕を引かなかった。
「この記憶は跫だけでもお前から平静さを失わせるというのに……ここまでまざまざと像を結べば、それは相当の負荷となるだろう……。何故私とお前との間に記憶の再生が起こったのかは私もわからぬが……ただ、お前はシセラ―――薬石村でも『歌』の呪術者の母親の意識を感知している……。記憶の共有をしやすい特質があるのか……」
神術師間では、記憶の共有は霊器の質の近い者同士に於いて稀に起こることがあると情報としては行き渡っている。しかしその「質」が何を指しているのかは曖昧で、その実例も挙げられてはいない。長女を生贄に使われた復讐のために、次女に時吸歌を実行させようと薬石村の村人多数と自らの命を生贄として捧げ、“イン”と負の契約を結んだ母親の脳内を幼いジークが感知したことも、母親の霊器の有無が不明であったために検証の対象とはされなかった。
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